原典への旅(2):KJ法と『発想法』その2

今回は、KJ法の基本的性質やその手順について改めて紹介しておくことにする。KJ法を、単なるカードの寄せ集め技法と思ってしまわず、その背景にある考え方も知っていただきたい。

前回に引き続きKJ法をとりあげるが、今回は、KJ法の基本的性質やその手順について改めて紹介しておくことにする。KJ法を、単なるカードの寄せ集め技法と思ってしまわず、その背景にある考え方も知っていただきたい。

アブダクション(abduction)か帰納法(induction)か

もともとKJ法は、『発想法』という書籍タイトルにもあるように発想を支援する手法として開発されたものであり、情報集約だけを目的としたものではなく、したがって推論形式としての帰納法(インダクション, induction)のための方法として開発されたものでもなかった。むしろ、アリストテレスやパースが提唱した仮説形成や仮説的推論(アブダクション, abduction)という推論形式を支援するためのものであった。ここでアブダクションは、観察された事実の集合をもとに、それらについて最もありそうな仮説を推論することである。この点は、川喜田が明確に述べている。

しかし、前述したホルツブラットたちは、KJ法が親和図法として欧米に紹介された経緯も関係して、川喜田の意図を忠実に踏まえる姿勢は持っていなかった。彼らは、イギリスの哲学者で教育者であったファウラー(Fowler, T. 1832-1904)の言葉を借りて、「親和図は”特殊から一般へ、既知から未知へ至る”推論である帰納法によって構築されている」と述べている。また「情報の統合(consolidation)は、個別のデータを親和図としてまとめることによって、顧客の母集団のもつ傾向をあらわすモデルを構築する帰納的なプロセス」だ、とも述べている。このアブダクションとインダクションの関係については、手順3の項で改めて説明する。

それでは、以下に、KJ法の手順と親和図法の手順を比較しながら説明する。

KJ法の手順と親和図法の手順の比較

手順1. 情報の素片の収集

川喜田は、大きな流れとして、まずブレインストーミングによって情報やアイデアを集め、それからその情報をKJ法によって構造化し、さらにPERTによってその構造を手順化するやり方を推奨している。いいかえれば、もとは人類学のフィールドワークで収集した情報を集約する手法として開発された手法を、発想法として再定義したわけである。そして、その考え方を図1のようなW型問題解決モデルとして表現している。W型のうち、特に太線にした部分がアブダクションとして重要な段階ということになる。

前半の野外科学と、後半の実験科学の2つのV字からなるモデル。前半の野外科学の部分がアブダクションとして重要な段階。
図1 W型問題解決モデル

最初の段階となる情報やアイデアの集め方としては、調査を実施して見聞きしたことをかき集めてもいいのだが、川喜田は、オズボーン(Osborn, A.F.)のブレインストーミングを実施することも推奨している。ホルツブラットたちは、親和図作成の第一段階として、彼らが提唱しているコンテクスチュアル・インクワイアリー(contextual inquiry)という手法を利用することを勧めている。これはフィールドワークの手法をビジネス向けに翻案したものといえ、調査対象となるユーザの行動を観察しながら、不明点や疑問点を逐次インタビューしていく手法で、観察と面接を統合したやり方である。

手順2. 情報のカード記入

得られた情報は、KJ法でも親和図法でも一件一葉の形でカードに記入していく。素片的情報をカードに記入するというやり方は、KJ法以前にも、たとえば梅棹忠夫が推奨している京大式カード(梅棹忠夫 (1969) 『知的生産の技術』岩波書店)などもあるが、次の段階でカードをグループ化するという点がKJ法のユニークな点であり、親和図法でもそれを継承している。なお、他人が読んでも意味がとれるような日本語で書く、という点は梅棹の場合と同様である。

近年、50x75mmほどの(強)粘着型ポストイットを利用するケースが増えているが、特に初期の段階では大きな模造紙の上でのカードの移動が頻繁に発生するので、移動のしやすい裏紙のついたラベルを使う方が良いだろう。台紙に固定してしまうと移動が面倒になるし、一旦置いた位置からの変更もやりにくくなる。位置が確定したら裏紙を剥がして固定する。このために名刺大のKJ法カードが販売もされているが、一般のラベル用紙、つまり台紙に張り付けてあり、位置がきまったら台紙からはがして張り付けられるラベル用紙(たとえばコクヨのKPC-HH124-20のようなもの)がいいだろう。

また、一件一葉という大原則はきちんと守らねばならない。一枚のカードに複数の情報が含まれていると、そのカードの位置付けが困難になるからである。それでも、一つの情報が複数のグループに属すると考えられる場合もあるが、その時はカードの内容を書き写して二枚にすればよい。

手順3. グループの作成

この段階がKJ法(アブダクション)と親和図法(インダクション)の別れ道となる。その意味では非常に重要な作業段階である。川喜田は、アイデアの出発を促すような基本的な一群のデータを基本的発想データ群、ないしBAD(Basic Abductive Data)と呼んでいる。この表現にabductiveという単語が含まれていることに注意されたい。カードの数でいえば数枚から十枚程度のグループである。

その際、どのような基準でグループにまとめて行くかが重要である。基本的には「内容の上でお互いに親近感を覚えるカード同士」をまとめてゆくのだが、特にKJ法の場合については、川喜田の表現を使うなら、「理性で考えるのではなく情念で考える」「理性的判断が入るにしても、それは情念のあとについてくる」「自然に集まってきた、という感じが大切」なのである。言い換えれば、ここで理性的、論理的にグループ化をするならば、担当者が既に持っているカテゴリーをデータに適用することになってしまい、親和図法的な情報の分類整理にはなるかもしれないが、KJ法的な発想にはつながらない、ということである。

手順4. 見出し

グループ分けができたら、よく見直しをして、グループ分けの適切さを確認する。グループを同じくらいの数のカードにする必要はない。場合によっては一枚のカードだけでグループとすることもある。

次いで、それぞれのグループにラベルをつけてゆくのだが、ここでもKJ法では、単に既有概念を当てはめるのではなく、「なるべく柔らかく、もとの発言の肌触りができるだけ伝わるように表現する」ことが重要とされる。この見出しは、グループ内の個々のカードの内容を集約するものなので、細心の注意を払う必要がある。

ラベルが決まったらそれを親和カードというカードに記入する。要するにグループのラベルをあらわすカードである。

手順5. 反復

親和カードを作り終えたら、それらを眺め、さらにグループに入らなかったカードについても考慮しながら、上位の親和カードを作成し、以下、それを反復して行く。いいかえれば、その作業は完全なボトムアップであり、「品質」とか「ユーザエラー」といった大きなグループを作ってから、それを細分してゆくやり方は避けねばならない。

ホルツブラットたちは、最初のレベルの親和カードには青いカードを使い、その上位にはピンクを、そしてその上位には緑のカードを使うことを推奨している。ただし、その3階層で全体が収まるという保証はない。また、親和図法では、もともとのKJ法のようにグループを円で囲むのではなく、親和カードの下にそこに含まれるカードを並べ、整然とした木構造の形になるように配置することが多い。

その後

ここまで来て、図1のWの左半分の野外科学的な作業がひとまず完了したことになる。ただし、KJ法ではこうした図式化によるA型の次に、その内容を文章化するB型の作業がある(まとめてAB型という)。さらにその次の段階で実証科学的な作業に移ってゆく。ホルツブラットたち最新刊に書かれているやり方では、さまざまな経験モデル(experience model)を構築する作業に入っていく。

公開: 2018年7月17日
著者: 黒須教授

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