オンラインを復活させよう:1. テレワークにおける課題

コロナの大流行によって多くの企業がテレワークの導入に踏み切った。これにはメリットもデメリットも多いということが明らかになってきている。テレワーク普及の足かせになる要因の解決を考えるべきだろう。

  • 黒須教授
  • 2023年10月5日

テレワークに陰りが

コロナの大流行によって、多くの企業が在宅勤務やネット接続を使ったテレワークの導入に踏み切るようになった。ちなみにテレワークは総称で、在宅勤務、モバイルワーク、サテライトオフィス勤務に大別される。内閣府のデータ(https://www5.cao.go.jp/keizai2/wellbeing/covid/pdf/result6_covid.pdf)によると、その傾向は図1のようになっている 。コロナ流行直前の2019年12月には、全国で10.3%、東京23区でも17.8%しかなかったものが、2020年5月には、全国で27.7%、東京23区では48.4%に跳ね上がっている。その後も2023年3月まで、全国で30%前後、東京23区では50%強の水準を維持しており、それで安定していたかに見えた。

図1 地域別のテレワーク実施率(https://www5.cao.go.jp/keizai2/wellbeing/covid/pdf/result6_covid.pdf)

しかし、報道(番組名は失念)によると、2023年5月に感染症法上の位置づけが5類に移行したことが契機となって、その比率が最近はやや低下しつつあるという。第9波が起こっているというのに、である。

業種別のテレワーク実施率

図1と同じ資料には、業種別のテレワーク実施率も示されている。それを図2として貼りつけた。

図2 業種別のテレワーク実施率(図1と同じ資料から引用)

図2を見ると、情報通信業がダントツの一位であるが、デスクワークが圧倒的に多そうな業種だから、それは当然のこととして納得できる。40%台になっている、電気・ガス・水道業、金融・保険・不動産業、製造業、その他のサービス業(対事務所サービス)もデスクワークをしている部分が多そうだから納得することができる。

ただ、公務員が27.1%というのは理解に苦しむ。公務員には窓口業務もあるだろうが、デスクワーク比率は高いのではないかと考えられるからだ。

建設業や運輸業は人が動いていかないと成立しないから、テレワーク化はむつかしいのだろう。さらに、その他のサービス業(対人サービス)や医療・福祉や保育関係は対人業務が基本となるから、テレワークにすることは困難なのだろうと解釈できる。

要約すれば、デスクワークの比率が高ければ、その部分はテレワークに置き換えることが可能だったということだろう。2020、21、22、23という3年半にわたる長期の社会的実証実験の結果、ということができる。

テレワークのネガティブな側面

テレワーク導入を契機として自然の多い遠隔地に移住した人もいたし、通勤の苦痛から解放されたとか、自分のペースで仕事ができるとか、ライフワークバランスが適切にできるなどという声もあった。それと関係したこととして、育児や家事、介護などを合間合間にやりながら就労することができるようになったという点もメリットといえるだろう。また雇用側にとっては出社人数が減ることからオフィスの賃料を抑えることができるという面もあった。

ところが、テレワーク万々歳というわけではなかった。図3(同一資料からの引用)に示すような側面については、テレワークは不便であったという声があがっている。ただ、全回答の7、8割を占めるというわけではなく、3割以下であるから、それほど強烈なネガティブオピニオンではなかったと見ることもできるが、もちろんテレワーク普及の足かせになりかねない要因ではあり、その解決を考えるべきだろう。

図3 テレワークで不便な点(図1と同一の資料から引用)

たとえばトップには「社内での気軽な相談・報告が困難」という不便さが挙げられている。たしかにZoomやWebExなどの動画会話ツールは比較的自然に画面を通じた対話ができるものの、あらかじめ時間を決めたり設定をしておかなければならないので不便といえば不便である。メールは連絡にはいいが短時間の対話を繰り返す相談という場面には向いていない。LINEは相談にも使えるが、社内で相手のデスクに出向いて直接話をするような気軽さは実現できない。実際に相手が見えているときと違い、既読マークがつかないと相手が不在なのか繁忙時なのかもわからない。電話といういささか古いメディアの方がその点は使い勝手がいいというべきかもしれないが、電話をとってくれないと困ってしまうのはLINEと同様である。その他、いろいろとツールはあるけれど、たしかに「気軽な」相談や報告に向いたメディアはまだ登場していないというべきだろう。

その他、図3にリストされている不便さは、それぞれに納得できるものである。ここまでは内閣府の公表した資料をもとに議論してきたが、それ以外でも、いろいろな点が指摘されている。たとえばTOPPAN BIZの(https://solution.toppan.co.jp/ds/contents/remotework_1.html)には次のような点が挙げられている。

少し加筆して引用させてもらうと、次のようになる。

  1. セルフマネジメントが難しい。近くに同僚や上司がいないことから緊張感が失われ、生産性の低下につながりかねないという点。これは、内閣府の調査結果では、画面を通じた情報のみによるコミュニケーション不足やストレスという項目に該当するだろう。
  2. コミュニケーションのとりづらさ。これは内閣府の調査結果でもトップに位置していたものだが、ここでは「雑談」のような気軽な会話が難しいと書かれている。たしかに業務に関するコミュニケーションはツールによって行うことができても、雑談をベースにした職場の一体感のようなものが醸成しにくい、とは考えられる。この点は、孤独感からストレスを抱えてしまうということにもつながりかねない。
  3. 長時間労働になりやすい。これは内閣府の調査結果では「仕事と生活の境界が曖昧になることによる働きすぎ」という項目に該当するだろう。また反対に、自己管理がうまくできないと、かえって生産性が低下してしまうことになる可能性もある。
  4. 帰属意識の低下。業務形態を工夫しないと、個々に点在した労働者は孤立し、コミュニケーションが希薄化するため、組織に帰属しているという気持ちが薄くなってしまうことは考えられる。

こうした点を指摘したサイトは他にも幾つかあるが、大きくは類似したものになっているようだ。追加するならば、仕事をする場所のネットワーク環境が整備されていないと、コミュニケーションもとりづらく、業務効率の低下につながりかねない、ということもあるだろう。

このように、テレワークにはメリットも多いが、デメリットも多いということが、この3年半にわたる経験から明らかになってきている。

(「オンラインを復活させよう:2. テレワークシステムの改善」につづく)