Userはユーザかユーザーか:
カタカナによる外来語の表記、特に長音表記について

外国語を日本語にするときには、完全に日本語に訳してしまうこともあるが、カタカナ表記しか使われていない単語も多い。このカタカナによる外来語の表記にはいろいろと課題がある。今回はuserのカタカナ表記に代表される長音表記に焦点を当てることにする。

UsabilityやUXに関わる外来語

外国語を日本語にするときには、human centered designを「人間中心設計」とするように完全に日本語に訳してしまうこともあるが、designのように「デザイン」というカタカナ表記と「設計」という日本語に訳しわけられる場合もある。ただし、designの場合は意味も若干異なってくる。さらにカタカナ表記しか使われていない単語も多い。たとえばhuman interfaceという言葉のうち、humanの部分については「ヒューマン」という一種類しかカタカナ表記はないが、interfaceという単語には「インタフェース」「インターフェイス」「インターフェース」さらに「インタフェイス」というカタカナ表記がある。このことは、比較的良く知られているだろう。このようにカタカナによる外来語の表記には、いろいろと課題がある。今回はuserのカタカナ表記に代表される長音表記に焦点を当てることにする。

原音との近さ

ところで、外国語をカタカナ表記する場合、interfaceのように複数の表記が使われているケースは一般用語にも結構多い。cupに対する「コップ」と「カップ」、ironに対する「アイロン」と「アイアン」、glassに対する「ガラス」と「グラス」などである。これらの例では、二番目の表記の方が原語の発音に近くなっているが、user experienceのexperienceは「エクスペリエンス」とするケースが圧倒的に多く、「イクスペリエンス」という表記はあまり見かけない。ましてやUXのXについては、ほぼ100%「エクスペリエンス」である。しかし発音記号では、/ɪkspɪ́(ə)riəns, eks-/(新英和中辞典第7版)となっており、原音に忠実にしようとすれば「イクスピリアンス」あたりが適当ということになる。でもGoogleで“イクスピリアンス”を検索するとわずか10,000件しかヒットしない。“エクスペリエンス”の7,430,000件や“イクスペリエンス”の190,000件と比べても、その数は少なく、カタカナ表記を原音に忠実なものにしようとするよりも、ローマ字読みに近いものの方が日本人には受け入れられやすいようではある。

さて今回タイトルにしたuserの場合はどうだろう。“ユーザ” –“ユーザー”という形でGoogle検索をしてユーザという表記を調べて見ると18,900,000件、反対に“ユーザー”という表記を調べて見ると20,300,000件となった。ただし、ユーザのほうにはユーザビリティなどの単語も含まれているだろうから、それを差し引いて考えると現在ではユーザーという表記が一般化しているといえるだろう。

ちなみに英語辞典的には/júːzə~ | -zə/となっており、伸ばす方が標準的ではあるが、ユーザと止めてしまっても間違いではない。さらに、YouTubeの「英単語user発音と読み方」では、イギリス英語はユーザに、アメリカ英語ではユーザーに聞こえる。ただ、experienceのところで書いたように原音に忠実なのが世間に流通するカタカナ表記であるとは限らないのが日本語の特性のようなので、ユーザーという表記が多いのはアメリカ文化の影響が強かったからとも、たまたまであるとも考えられそうだ。

カタカナによる外来語表記の基準

カタカナによる外来語の表記には幾つもの基準がある。

国語審議会の答申「外来語の表記」 1991年

まず文部科学省の国語審議会では、「外来語の表記」という内閣答申を1991年に出している。そこでは、外来語を次の三種類に分けている。

(1) 国語に取り入れた時代が古く、国語に融合しきっていて、外国語に由来する感じが余り残っていないもの。例えば、「たばこ、煙草」「てんぷら、天麩羅」「じゅばん、襦袢」など。この類は、平仮名や漢字で書かれることも多く、語形についても、書き表し方についても、十分に国語化している。

(2) 既に国語として熟しているが、なお外国語に由来するという感じが残っているもの。例えば、「ラジオ」「ナイフ」「スタート」など。この類は、語形のゆれが比較的少なく、比較的よく国語化した語形に基づいて、片仮名で書き表す。

(3) 外国語の感じが多分に残っているもの。例えば、「ジレンマ」「フィクション」「エトランゼ」など。この類は、語形にゆれがあるものが多く見られる。外国語の原形に対する顧慮から語形を正そうとする力が働きやすく、「ジレンマ」に対して「ディレンマ」、「エトランゼ」に対して「エトランジェ」のようなゆれが生じる。現代の和語や漢語にない音が用いられることもある。

さらに「一方、国語の文章や談話の中に外国語の語句がそのまま取り入れられ使用されることもある。このようなものは、外国語と呼んで、外来語とは区別すべきもの」である、ともしている。

この基準に照らしてみると、usabilityやUXやuser interfaceなどに関係した言葉は、その大半が(3)のカテゴリーに属すると考えることができる。今回は、特に長音の表記に焦点をあてているが、この答申では「注3 英語の語末の―er、―or、―arなどに当たるものは、原則としてア列の長音とし長音符号「ー」を用いて書き表す。ただし、慣用に応じて「ー」を省くことができる。」としている。これによると、基本的にはユーザーとなるが、慣用によってユーザと書くことも認められることになる。

また、interfaceについては、「注2 「エー」「オー」と書かず、「エイ」「オウ」と書くような慣用のある場合は、それによる。」という注記があるので、どの表記でもそれを「慣用」とみなせば許容されてしまうだろう。

TC協会の「外来語(カタカナ)表記ガイドライン」 2015年

次に2015年に公開されたTC協会(テクニカルコミュニケーター協会)の「外来語(カタカナ)表記ガイドライン 第3版」をとりあげよう。そこでは、2003年に実施した製品利用者への調査にもとづき「総体的には、長音付けのカタカナ用語の方に馴染みを感じている利用者が多いということがわかりました」としている。つまりユーザよりユーザーのほうが馴染みを感じさせるということである。

また、その後2006年には「カタカナ用語不統一表記に関するアンケート」を実施した結果が公表されており、第2版は主にそれをベースにしてまとめられている。ただ、その調査で対象となったのは、メーカーの社員30名、制作会社、印刷会社の社員15名、フラリーランスのライター・デザイナー・翻訳者など3名、大学教授1名、情報学関連の教員1名、翻訳会社のOA担当1名、未回答1名であった。同協会の会員構成から考えるとメーカー社員30名も社内でマニュアルや取扱説明書を担当している部署の人たちである可能性が高く、必ずしも技術的な(開発者や設計者の)観点からまとめられたものではない、つまり領域固有の知識(domain knowledge)を反映したものではないといえる点に注意が必要だろう。

このガイドラインでは「(1-1)英語の語尾の‐er、‐or、‐ar、*y にあたるものは、原則として長音とし長音符号「ー」を用いて書き表す」となっており、内閣告示とも対応している。これによるとuserについてはユーザではなくユーザーが適切だ、ということになる。

また「(1-2)「ai」「a+子音字+e」「o」など、発音記号が“ei”、“ou”などのアクセントのある二重母音になる表記には長音符号「ー」を充てる」ともなっており、これによるとinterfaceの後半については「フェース」が適当ということになるのだが、例外規定があり、interfaceについては「インターフェイス(interface)[59.1%]」となっている。59.1%というのは前述のアンケートでの支持率のようだが、数値的にはほぼ半分であり、インタフェースを強く否定するところまでは行っていないようにも思われる。つまりhuman interface societyが日本語ではヒューマンインタフェース学会としているように、領域によっては、インタフェースという表記が現在も残っているのは不思議ではないのだ。

まとめると、このガイドラインに完全に準拠しようとすれば、ユーザーインターフェイスという表記が適切であるということになるのだが、UIの領域で活動している研究者やエンジニア、デザイナーなどの意見を考慮するとユーザインタフェースという表記も許容されていいのではないかと思われる(筆者はその立場である)。

JIS Z 8301:2011 2011年

三番目の資料は、JIS Z 8301という規格である。この最新版は2011年に制定されたもので、JIS規格について「規格票の様式及び作成方法」を定めたものである。ただし、大半の内容は2008年版の「規格票の様式及び作成方法」と同じである。JIS Z 8301の附属書Gは「文章の書き方、用字、用語、記述符号及び数字」というタイトルになっていて、そのG6.2が「外来語の表記」となっている。そこでは、規格の考え方を

外来語の表記は,主として“外来語の表記(平成3.6.28 内閣告示第二号)”による。片仮名書きの外来語を用語にすることは極力避けなければならないが,やむを得ず採用する外来語の表記に一般的に用いる仮名(長音記号を含む。)は,表G.1 の中から選び,その外来語に最も近い音(以下,外来音という。)に対応する仮名は,表G.2 から選ぶ。ただし,慣用が定まっている場合には,それぞれの慣用による

としている。つまり、TC協会のガイドラインもJIS Z 8301も、基本的には内閣告示を尊重しているが、そこで明記されていない範囲については、独自に基準を設定しているということである。

この附属書GのG6.2.2の「英語の語尾に対応する長音符号の扱い」には次のように書かれている。つまり

「英語の語尾に対応する長音符号の扱いは,通常,次による。
なお,英語の語末の -er,-or,-ar などは,ア列の長音とし,長音符号を用いて表すものに当たるとみなす。

  1. 専門分野の用語の表記による。
    注記 学術用語においては,原語(特に英語)のつづりの終わりの -er,-or,-ar などを仮名書きにする場合に,長音符号を付けるか,付けないかについて厳格に一定にすることは困難であると認め,各用語集の表記をそれぞれの専門分野の標準とするが,長音符号は,用いても略しても誤りでないことにしている。
  2. 規格の用語及び学術用語にない用語の語尾に付ける長音符号は,表3 による。

となっている。

なお、JIS Z 8301については2011年版に対応した「JIS原案作成のための手引き」第17版が作成されていて、その中には、userについて

不適切又は注意を要する例 – ユーザ
JIS,公用文などにおける表記 – 使用者、利用者
説明 – “ユーザ”でもよいが,規格内では統一する。

と書かれている。G.6.2.2から考えるとユーザーが適当と考えられるが、この手引きでは例外という形で(原則は漢字表記であるが、カタカナ表記を使うなら、という意味である)ユーザという表記をとりあげている。

まとめると

以上の3つの資料にもとづくと、タイトルにしたuserについては、どうもユーザーという表記とユーザという表記が相半ばする感じであり、interfaceについてもインターフェイスでもいいしインタフェースでもいい、というところだろう。またUXはユーザーエクスペリエンスで仕方がない(筆者としてはユーザイクスペリエンスもいいんじゃないかな、などと思ってしまうのだが)ということになるだろう。

おまけ:ユーザという表記の好きな方へ

筆者はユーザという表記やインタフェースという表記が好きで長いこと使ってきた。そのため、指がタイプ順を記憶してしまっており、たとえばインターフェイスとタイプしようとすると、スピードも遅くなるし、ミスタイプも発生してしまう。そのため、どの原稿でもuserについてはユーザ、interfaceについてはインタフェースという表記を利用している。

ただ、原稿の提出先によっては、TC協会のガイドラインに従うことを明記していて、ユーザーという表記にしなければならないことがあり、そういうときは一旦ユーザという表記を使って原稿を書いてしまってからWordの「すべて置換」という機能を使って、ユーザをユーザーに変換している。その手順は以下の通りである。ご参考まで。

  1. ユーザで原稿を書く
  2. 書き終わったらユーザーをユーザにすべて置換する(紛れているユーザーを取り除く)
  3. 次にユーザをユーザーにすべて置換する(これですべてユーザーになる)
  4. さらにユーザービリティをユーザビリティに置換する(間違って置換されてしまったケースに対処する)

他にも語頭にユーザが入っている言葉があるなら4と同様の処置をする。

公開: 2019年2月21日
著者: 黒須教授