「指定されたユーザ」という考え方

製品やサービスの設計を、全方位的に多様な特性や利用状況を考慮して行うのは困難だ。設計活動を現実的なものにするためにターゲットユーザを想定すると考えると、ユーザ像の設定と設計プロセスの流れは次のように整理できる。

指定されたユーザ

ご存じのとおり、ISO 9241-11:1998 (JIS Z 8521:1999)では、使用性(usability)の定義

ある製品が、指定された利用者によって、指定された利用の状況下で、指定された目的を達成するために用いられる際の、有効さ、効率及び利用者の満足度の度合い

としている。この文のなかには「指定された」という言い方が3回も登場していて、邪魔くさい印象すら与える。

いまJIS化されようとしているISO 9241-210:2010でも、ユーザビリティの定義は

あるシステム、製品又はサービスが、指定されたユーザーによって、指定された利用の状況下で、指定された目標を達成するために用いられる際の、有効さ、効率及び満足度の度合い

とされていて「指定された」という言い方が使われている(暫定版なので最終的に若干変化するかもしれない)。

もちろん「指定されたユーザ」の英語はspecified userなのだが、現在審議されているISO 9241-11での途中バージョンでは、指定されたユーザの定義としてidentified userという言い方もでてきている。

The “specified” users are the users who are identified for the purpose of considering usability. The characteristics of the users will influence usability (see 7.2).

というわけだ。しかし、これでは同義反復みたいなものであまり情報はない。

誰が指定するのか

そもそもspecifyとかidentifyは誰が行うのか、という行為主体が明確でない。specifyしたりidentifyしたりする活動が、どの段階で、誰によって行われるものなのかを、規格であれば当然明確にしておくべきだろうが、それがなされていない。

考えてみれば、開発中の製品やサービスユーザについては、intended userとかtarget userという形で、プロジェクトチームで議論をして、リーダーが責任を持って決定するということになる筈ではある。ただし、そのためには、まず企画の段階でユーザイメージがまず大括りなものであっても想定されていなければならない。そうでなければユーザ調査をするときにインフォーマントを選択することすらできないからである。

そして、大括りなユーザ像は、その後のユーザ調査の結果分析によって、さらに具体化され詳細化されて、要求事項のなかに入れられることになるだろう。ペルソナはその段階で、ユーザ像の典型的代表という形で設定されることになるものだ。つまり、specifyやidentifyの主体はプロジェクトチームだと考えられるのだが、それは特定の段階で一発で決まるわけではなく、最初は大括りな方向性だけがあり、設計プロセスが進むにつれて徐々に具体化され明確化されてゆくものである。その筈である。

望ましいプロセスの流れ

製品やシステム、サービスの設計においては、すべての人を対象として想定することは少ない。だからintended userとかtarget userという言い方が存在する。全方位的に多様な特性や利用状況を考慮しながら設計を行うことは困難であり、場合によっては不可能なことすらあるだろう。だから、設計活動を現実的なものにするためにintended userとかtarget userを想定し、規格ではそれをspecified userと言っているのだ。

そのように考えると、ユーザ像についての設計プロセスの流れは、次のように整理できるだろう。

  1. 製品やシステムやサービスの方向性を考え、その主要なユーザ像を漠然とでも良いから設定する。これはプロジェクトチームを率いるマネージャの責任においてなされるべきことだ。
  2. 漠然としているユーザ像について、その特性や利用状況を概念的に想定しながら、ユーザ調査のためのサンプリングを行う。したがって、ある程度広めに範囲を設定してインフォーマントを集める必要がある。
  3. ユーザ調査の結果の分析にもとづいて、具体的にユーザ像や利用状況を絞り込み、specified userとして明確に整理する。
  4. specified userに関して、その特性や利用状況を確認し、必要とあればユーザに関する二次調査を行う。
  5. 特性や利用状況を確認した後、ユーザ像の典型的なもの、つまりspecified userの代表を2、3人分、ペルソナとして設定する。これによって、プロジェクトチーム内のイメージ統一を図る。
  6. デザインによる解決案の作成においては、現在、一般的に行われているように、ペルソナを想定しながら作業を行う。
  7. デザインの評価についても、ペルソナと、その背後にあるspecified user全体の特性や利用状況を考慮しながら作業を行う。

このような流れになると考えられる。しかし、そうしたことはISO 9241-210などの規格には、どこにも書いていない。規格制定委員の経験不足なのか想像力の不足なのか分からないけれど、もう少し規格を実践的に考えて欲しいものだ。

公開:2017年8月22日
著者:黒須教授

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