オンラインか対面か – これからのミーティングのあり方

新型コロナの感染が世界中に拡大して以降、国際会議や、国内の学会や研究会、大学の講義や企業などの会議も次々にオンライン開催に移行した。このようなミーティングのオンライン開催と対面開催について、その得失を考えてみたい。

  • 黒須教授
  • 2022年12月22日

新型コロナの影響

2019年に武漢で発生した新型コロナの感染が世界中に拡大した2020年、国際会議や国内の学会や研究会は次々にオンライン開催になるか、休会となってしまった。大学の講義や企業などの会議もZoomやWebExを使ったオンライン開催に移行した。翌2021年にはオンライン開催か、対面とオンラインのハイブリッド開催が主体となった。2022年には大学などでは対面だけで開催したところも多いが、対面とオンラインのハイブリッド開催が主体となっている。現時点で2023年の国際会議などについては、その多くで対面かハイブリッド開催が予定されている。

オンライン開催と対面開催の得失

ここで、オンライン開催と対面開催について、比較表の形でその得失を考えてみたい。ベースとして国際会議の場合を考えており、黄色に塗ったところが利点と考えられる部分である。また、1の開催コストは主催者にとっての得失であり、それ以外は参加者にとってのものである。

評価ポイント オンライン開催 対面開催
1. 開催コスト ◯ 会場費と運営に参加する関係者の人件費、会食費、その他の費用が削減される。ただし、オンラインのため通信費は必要になる。 会場費、人件費、会食費などがフルに必要になる。ハイブリッドにした場合には、それに加えてオンラインのための通信費が必要になる。
2. 参加費 ◯ 開催コストの削減により、対面と比較して半額程度にした学会も多い。 参加費はフルに必要になる。
3. 参加者の旅費・滞在費 ◯ 物理的に参加する必要がないため、旅費や滞在費がかからない。また、フライトやホテルの予約の手間が不要。 フライトやホテルを予約して、その費用を支払う必要がある。
4. 参加者の時間的拘束 ◯ 自宅から開催場所までの移動の時間が不必要だし、興味のある発表だけを選んでセッションに参加できる。また、仕事が忙しいなどの場合には、最低限、発表の時間だけ参加するということもできる。 すべてのセッションに参加できるということを利点と考えることもできるが、興味のあるセッションがない場合には、開催期間中は、単に時間的に拘束されるだけになる。
5. プレゼンテーションの質 ◯ スライドは明瞭に見えるし、音声もはっきり聞こえる。 会場前方に着席していないと、スライドが小さくて見にくいし、音声がよく聞こえなかったりする。
6. ディスカッションの質 チャットやコメントで質問をすることができるが、経験的には、全般的に議論は低調になりやすい傾向がある。 ◯ 発表者と聴講者が同じ空間を共有しているため、質疑が活発になりやすい。
7. セッション後のコミュニケーション 通常、オンラインセッションは打ち切られてしまうので、セッション後の名刺交換や追加議論などが困難。 ◯ セッション後に、発表に関心のある人たちは、発表者のもとに移動して、名刺交換や追加の議論などができる。
8. 友人との再会や新たな出会い 友人や知人とコミュニケーションをとるメディアがない。さらに、新たな出会いのチャンスがない。 ◯ レセプションの場などで友人や知人と再会できるし、新たな出会いをつくることもできる。
9. 時差 セッションの開始時間を6時間ずつずらせば、一応世界全体をカバーできることになるが、深夜や早朝にあたってしまった場合には参加者は睡魔との闘いになる。 ◯ 会場に到着した当初は時差ボケの可能性があるが、時差に適応してしまえば、昼間の時間だけで参加できる。
10. 参加に不自由を感じる人々 ◯ 病気になってしまったり、身体障碍などの場合には、物理的に移動しなくても済むため、参加が容易である。 病気になった場合には、参加を取りやめねばならなくなることがあるし、身体障碍の場合には、たとえば車いすでの移動は可能ではあるが、容易ではない。
11. 開催地を楽しむ 開催地に出かけていないため、現地の観光や飲食ができない。 ◯ オフになった時間に、現地の観光や飲食を楽しむことができる。

国際会議の場合

1の開催コストだけは、主催者側にとっての得失であるが、学会の主催は本来営利活動ではないため、基本的にはコストは2の参加者の参加費に反映される。

2の参加費は、基本的にオンラインの方がかなり安く設定でき、これは参加者にとってメリットといえるだろう。

3の参加者の旅費・滞在費は、オンラインの場合にはかからないのでメリットとなる。対面では支払いの必要が出てくるが、大学や企業などに所属している人の場合には、それらの費用は組織が支払ってくれることが多いため、基本的に個人負担にはならない。そのため、組織に所属していない場合には、対面の場合、高額な個人負担が発生することになる。

4の参加者の時間的拘束は、オンラインの場合には、必要性に応じてパソコンの前に座って大会に参加していればいいので、時間の使い方が効率的になる。対面の場合には、余った時間で11の観光を楽しむこともできるが、学会本来のあり方とはいいがたい。

5のプレゼンテーションの質は、学会としても重要なものだ。学会がアカデミック・コミュニケーションの場であることを考えると、少なくとも発表内容がきちんと聴衆に伝わることは最低条件である。会場の後ろの席にすわってスライドがよく見えなかったり、発表者と他の聴衆との議論がよく聞こえなかったりすると、コミュニケーションから疎外されてしまうことにもなる。その点、パソコンのモニターに見えるスライドとスピーカから聞こえてくる音声は、十分に大きく、またクリアでもある。

6のディスカッションの質については、対面の方が有利である。議論の場を物理的に共有していることのメリットは大きいからだ。この点で、ZoomやWebExなどのツールは不十分だと言える。しかし、技術開発が進めば、こうした場の一体感の演出も効果的に行えるようになるのではないかと、筆者は期待している。

7のセッション後のコミュニケーションについても、現状では対面が有利である。ただ、こうした点についても、ツールの技術開発で改善できる余地があるのではないかと考えている。

8の友人との再会や新たな出会いについては、対面の優位性は高い。もちろん、オンラインでもラインやメールなどを利用することはできるが、物理的に対面しているというメリットは他に代えがたいもののような気がする。臨場感通信の研究は随分昔から行われてきたが、ZoomやWebExを使ったリモ飲みですら、今のところは、対面での会食には負けている。

9の時差。実はオンラインの最大の弱点がここにあるように思う。実際に参加した経験からいうと、昼間の時間帯はどうしても欧米が取ってしまい、アジアやオセアニアは「何とか」参加できる時間帯に回されてしまうような気がする。もちろんセッションには各国からの参加者がいるわけなので、有利な時間帯がとれることもあるが、各国の代表が一堂に会して打合わせを行うというワークショップや委員会の場となると、アジアやオセアニアは不利になってしまう。

10の参加に不自由を感じる人々の参加という点では、オンラインが強い。オンラインには前述のようにいくつもの欠点があるが、参加の機会の公平さという点では、オンラインが勝っている。

11の開催地を楽しむことは、学会の付随的な楽しみである。付随的ではあるけれど、それが重視されているのは、対面の場合の開催地が毎回あちこちを移動することだ。それは単に交通の不自由さを均等にするためとは思えない。学会のウェプサイトには、たいてい開催地の観光案内が表示されているからだ。そんなに観光がしたければ、あらためて自費で観光をすればいいではないか、とも思うのだが、組織からの費用で参加できている人たちからすれば、せっかくの機会を逃したくない、という気持ちになるのも理解できる。事実、筆者もその恩恵を被っていた一人である。

国内学会や研究会の場合

国内であれば、9の時差の問題は生じないが、それ以外の点については、国際会議と同様に考えられるだろう。

一般的なミーティングの場合

学会以外であれば、企業の保有している会議室を使うなどすれば、1 (開催コスト)も2 (参加費)も関係なくなるだろう。3 (参加者の旅費・滞在費), 4 (参加者の時間的拘束), 5 (プレゼンテーションの質)については学会の場合と同様だろう。また6 (ディスカッションの質)については関係者が初対面でなければオンラインでも活発な議論が期待できる。7 (セッション後のコミュニケーション)についても同様である。8 (友人との再会や新たな出会い)はそもそも、そうしたミーティングに期待されるものとも思われない。9 (時差)については世界的企業などの場合以外は関係がない。10 (参加に不自由を感じる人々)は学会と同様にオンラインにメリットがあるだろう。11 (開催地を楽しむ)は関係ないといえる。

まとめると

こうして、国際会議、国内学会や研究会、一般的なミーティングを見てくると、オンラインでのミーティングの利点は大いに活用すべきだと思われる。ただ、6 (ディスカッションの質), 7 (セッション後のコミュニケーション), 8 (友人との再会や新たな出会い)などの点については、さらなる技術開発が求められる。そういえば、ZoomもWebExも国産ではない。国産と思われるものを2種類利用したことがあるが、アバターを使うというアイデアはゲーム大国ならではのものだったが、仲間内のミーティング程度にしか使えない品質のものだった。国内のICT技術者は何をしているのだろう。もっと真剣に問題に向き合って6, 7, 8を解決できるような新たなミーティングツールが国内から登場することを切に期待したい。