セルフレジのインタフェース
スーパーやコンビニで客が操作するセルフレジ端末が増えてきている。本稿ではスキャン操作の部分と入金の部分を分けて、そのインタフェースのユーザビリティや人間工学に関する問題を考えたい。
セルフレジの登場
スーパーやコンビニで客が操作するセルフレジ端末が増えてきている。厳密にいえば、商品のスキャンは店員が行い、客は支払いのみを行うセミセルフレジと、商品のスキャンから支払いまでを客が行うフルセルフレジとに分かれるが、本稿ではスキャン操作の部分(フルセルフレジのみ)と入金の部分(セミセルフレジとフルセルフレジに共通)を分けて、そのインタフェースのユーザビリティや人間工学に関する問題を考えたい。
キャッシュレジスターは1878年にアメリカのリティ, J.によって発明された。日本では1897年にアメリカから輸入したのが最初である。その後、1960年代には、単なる売上記録機にかわるPOSレジが登場し、商店での会計と商品管理が効率化された。その後、セルフレジが1997年にアメリカで、また2003年に日本で導入されたといわれている。ただ、比較的頻繁に見かけるようになったのは、ここ10年ほどではないだろうか。
その後、2016年に登場したAmazon Goは、まだ試行的な段階で世界中に広まってはいないが、スマホでの個人認証をベースに、客が自由に商品を持ち帰れば自動的に電子マネーで決済されるというもので、店頭支払いの革命とも言える。どのような商品を持ち帰ろうとしているかについては、RFIDという小型のタグを商品につけておき、それをスキャンする方式も考えられている。いずれにしても、個別の商品をひとつひとつスキャンする方式から、一括して精算が可能になる点に客側のメリットがある。
セルフレジでのスキャニング
フルセルフレジの場合、商品を確認し、値段を加算するために、まず商品をスキャンする必要がある。そのためには、商品の入ったカゴを所定の場所におくこと、カゴから商品を一つ一つ取り出してスキャンすること、スキャンし終わった商品を袋にいれること、の三段階の操作が必要となる。そのためには、まず、カゴを置く場所が確認できなければならない。しかし店によっては、ほぼ同じ大きさの平面が三箇所もあり、どこに置けばいいのかがわかりにくいことがある。もちろん、注意すればちゃんと指示が書いてあるのでわからないはずはないのだが、その段階で迷ってしまっている人、主に高齢者なのだが、がいることも事実である。
次にスキャン操作に入るのだが、バーコードをレーザーで読み取っている、ということを理解できないでいるような人もたまにはいる。また、これは読み取り性能の問題もあるのだろうが、バーコードリーダがどっち方向にあるのかが分からないこともある。これについては、レジのオペレータでも何度かやり直しをすることがあるくらいだから、現在の技術では仕方のないことなのかもしれない。さらに、バラ売りのりんごやジャガイモなど、バーコードのついていない商品をどうすればいいのかが分からないこともある。そうしたオロオロした客…ときには筆者自身がそうなってしまうのだが…を見つけると、セルフレジコーナーに大抵一人は配置されている店員がやってきて、操作の仕方を教えてくれる。やはり、セルフとはいっても、一部の客にとっては完全にセルフにするのは困難なことのようである。それからスキャンした品物をカゴや袋にいれるのだが、レジ袋は有料のことが多いため、まずはレジ袋をスキャンして購入し、それから所定の位置に吊るして、そこに品物をいれることになる。やれやれ、である。慣れたおばちゃんたちはサッサと作業を進めていくが、慣れていない人たち、特に高齢者には、この一連の作業が理解できずにお手上げになってしまう人が多い。多分、一度そうした経験をすると、それに懲りてしまって、以後は有人レジの方に並ぶことになるのだろう。
しかし、このスキャンニングについては疑問に思うこともある。つまり万引き行為の防止である。カゴを乗せる台と袋を引っ掛ける台のそれぞれにはかなり敏感な計量器がついていて、乗せる台から減った重量と引っ掛ける台に加えられた重量の一致を確認しているのだと思うが、それってどのくらいの精度なんだろう。たとえば10gくらいの軽くて小さなものであれば、他のものと一緒にカゴから袋に移してしまってもわからないのではないだろうか。あるいは、大きな商品の陰に小さな商品を隠して一緒にカゴから袋に移動したらどうなのだろう。もちろん万引き行為になるので実験してみたことはないが、疑問に思う点ではある。
セルフレジでの精算
精算のプロセスについてはフルセルフレジだけでなくセミセルフレジでも同じことが言えるのだが、そこには認知工学的な課題がある。それは現金精算をする場合だ。紙幣やコインを投入する場所、投入するやり方、そして釣り銭がでてくる場所、それらが店ごとに違うといってもいいほどバラバラで統一されていないのだ。要するに一貫性の欠如である。
紙幣を投入するにしても、縦向きにしてスロットに入れるやり方、縦向きでスロットに寝かせて入れるやり方、横向きにして寝かせて入れるやり方、横向きにして縦に入れるなど、考えられる限りのバリエーションがある。しかも、釣りの紙幣がでてくる場所が投入場所と同じだったり別だったりもする。なぜわざわざ他社と異なる設計にしようとするのだろう。業界規格を考えようとする業界団体はないのだろうか。一貫性の確立のため、各社の関係者が努力してくれることを願うものである。
なお、コインについては、自動計数して釣り銭を出してくれるので、筆者など、財布にコインが溜まったときにはジャラジャラと全部いれてしまい、できるだけ手元に残るコインを減らそうとしてしまっている。まあ、そういう使い方もある、ということである。コインの場合には排出のときに音がするので、釣り銭が出てきた場所が分からない、という人はほとんどいないだろうとは思う。
ついでに…
顧客操作型セルフレジの話をしたついでに、店員操作型レジスターについても触れておきたい。機能的にはフルセルフレジと類似したものだからだ。
このタイプにおける問題は、人間工学、特に労働科学的なものである。スーパーの店員は、レジスターのところにずっと立ち続けて商品操作や機器操作をしている。ずっと、である。しかし、その居場所はほとんど変わらない。そうであるなら、回転する椅子に座って作業をしていてもいいのではないか、と思えるのだ。もちろん、今のままの機器の形状や部品配置では都合の悪いこともあるだろう。だったら、座位でも操作しやすいPOSレジスターを設計しようとする動きが出てきても当然なのではないだろうか。顧客であるスーパー側からメーカーに要求が来ないからなのだろうか。スーパー側は労働者の作業状態を理解していないのだろうか。労働組合は何をしているのだろうか。
いや、オランダに滞在していた時、スーパーのレジを操作する店員は座っていた。つまり、座ってできないことではないのだ。そして、立ち位置が変わらないのであれば、立位より座位の方が疲労軽減につながるはずである。ちなみに、コンビニの場合、店員は店内を動き回ったりすることもあるので、必ずしも座位が適しているとは限らないだろう。ともかく、労働科学といういささか古めかしいタイトルの問題がまだそこにはあるといえる。