UCDと心理学の関係

「HCDに役立つ心理学の常識」という講演で、ユーザビリティ関係の心理学とUX関係の心理学とを区別し、具体例を交えて詳しく説明するようにした。以下はHCDやUCDの関係者に知っておいてほしいと思っている事項である。

HCDと認知心理学

時々HCD-NetなどでHCDに役立つ認知心理学といったテーマの講習会が開かれている。それはそれで結構なのだが、僕は、いつまでも認知心理学だけじゃないだろう、という気持ちでいる。

たしか1990年頃だったと思うが、FRIEND21という通産省の大プロでキックオフのシンポジウムを開いたときに、招待されていたNormanが、集まった人にむけて「この中に心理学者は何人いますか」と尋ねたことは今でも記憶している。僕は当時は日立製作所にいて心理学やってますというのが憚られたので手を挙げなかった。たしか三宅なほみさんくらいしか純然たる心理学者はそこにはいなかったように思う。

そのころからボチボチと認知心理学とHCIがコラボしたイベントが開かれるようになった。そこに登場するのは三宅なほみ、三宅芳雄、加藤隆、原田悦子、伊東昌子といった皆さんだった。またNormanの「誰のためのデザイン?」が訳出されたのも1990年で、ちょっとした認知心理学ブームになっていた。

ただ、UXが話題になってきても、心理学といえば認知心理学という思い込みがHCD関係者の間に強く残っているためか、心理学の他の領域についての関心は薄かった。

HCDに役立つ心理学

今年になってから、僕は首都大学東京のオープンユニバーシティで「UCDと心理学」という講座を実施した。ちょっと内容を詰め込みすぎたので、皆さん、未消化に終わってしまった可能性はあるのだが、認知心理学だけがUCDに関係しているわけではない、ということは理解していただけたと思う。

今回、HCD-Net関西で「HCDに役立つ心理学の常識」という講演をするにあたり、そのときのPPTを再編集した。HCDに関係が薄いテーマは削除し、関係しているものは具体例を交えて詳しく説明するようにした。それ以上に、ユーザビリティに関係する心理学とUXに関係する心理学とを区別したことが大きな特徴である。

ユーザビリティはcapabilityであって、そのcapabilityを高めるために配慮すべき事項は前者に、UXは結果であって、結果としての経験の指標として重要な満足感に関係すべき事項は後者に含めた。そうやって区別をするためには、ユーザビリティとUXに関する僕の概念図を理解してもらっておく必要があるので、最初はその話をすることにした。

左側に「UI」、右側に「UX」がある。UIの上部(左上)に「客観的設計品質」、下部(左下)に「主観的設計品質」がある。UXの上部(右上)に「客観的利用品質」、下部(右下)に「主観的利用品質」がある。
設計品質と利用品質(前編)」より。

ユーザビリティに関係する心理学

次いで、感覚の心理学、眼球と眼球運動、色覚、可読性、図と地、群化の法則、枠組み、奥行き知覚、認知プロセス、フィードバック、アフォーダンス、メタファ、マッピング、直交座標系の錯誤、一貫性、再生と再認、忘却とリハーサル、メモリースパン、系列位置効果、プライミング、長期記憶、行動スキーマ、エラー、理解しやすさ、問題解決と思考、発想支援、状況論的アプローチなどについて説明をするようにした。たしかに認知心理学の話は、ユーザビリティとの関係が深いことがわかるだろう。

UXに関係する心理学

こちらでは、順応水準、係留効果、埋没費用、中心化傾向、ハロー効果、防衛機制、認知的不協和、期待効用理論、プロスペクト理論、制御焦点理論、解釈レベル理論、学習、条件づけ、強化と消去、暗黙の強化、間接強化、知能、感情、動機付け、マズローの欲求階層、ピークエンドの法則、ポジティブ心理学、感情的資産、要求水準、フラストレーション、人格の構造、性格の認知、レディネス、加齢、態度、社会的認知、印象形成などの話題について説明をするようにした。心理学だけでなく行動経済学などの話も含める必要があると考えた次第である。

心理学の方法

心理学的な事実とされているものには、仮説検証型のもの、探索的なもの、経験則によるもの、洞察的ロジックによるものがあること、また、心理学の方法としては、Weberの法則、Fechnerの法則、信号検出理論、統計的考え方、心理学的尺度水準、評定尺度、リッカート法、マグニチュード推定法などを含めた。

これだけでスライド枚数は489枚になってしまったので、たぶん4時間や5時間の講演では完全にオーバーフローしてしまうだろう。しかし、HCDやUCDの関係者には、この位のことを知っておいていただきたい、とは思っている。そこで講演では、ここから適宜サンプリングをして説明をし、あらためて新規に著作としてまとめようか、などと考えているところである。そうしたらもっと多くの人に読んでいただけるだろう。

公開:2016年12月12日
著者:黒須教授

分類キーワード: