進む「電車離れ」と見直される「クルマの価値」
働き方・住まい・移動に関する自主調査(2)
イードが独自に実施した調査からは、コロナ禍において人々の「電車離れ」が進む一方、「クルマ」の再評価が進んでいることが分かりました。「感染リスクが低い」ことの他にも、評価されたポイントがあるようです。
株式会社イードは、Withコロナの状況下で、人々の働き方・住まい・移動がどのように変わり、どのような意識の変化があったのかを探るため、独自で調査を行いました。その結果をご紹介しながら、「今何が起こっていて、今後どうなっていくのか」を数回に分けて考えていきたいと思います(第1回、第3回)。今回は、「クルマの価値」について考えてみたいと思います。
調査概要
- 調査手法
- インターネットアンケート(アンケートパネルに対する調査)
- 実施期間
- 2020年7月3日~7月6日
- 調査対象者
- 20-69歳男女、有職者
- 有効回答数
- 1,234s
- 集計
- 総務省統計局「労働力調査」の「就業者」の性年代構成比に合わせてウェイトバック集計
進む「電車離れ」
最初に「電車」についての意識の変化を見てみたいと思います。新型コロナウィルスの流行を受け、私たちは物事の判断基準に「感染リスク」という、今まであまり意識していなかった基準を持ち込むようになりました。移動手段も例外ではなく、「密」な状態になりがちな公共交通機関に対してネガティブなイメージを持つようになった人も多いのではないでしょうか。実際には「電車内での感染リスクはそれほど高くはない」という説もありますが、人が密集する空間に対して生理的な抵抗感を覚えるようになった人も多いようです。アンケートでは、以下のようなコメントが寄せられました。
- パーソナルスペースに敏感になってしまったため、近くに人が居ると居心地が悪い。(35-39歳男性)
- 満員電車が三密状態だったことに気づいて、乗るのが嫌になった。(女性25-29歳)
- やっぱり、密集した電車の中は怖いと思うし、意識してしまう。(男性25-29歳)
アンケートで聞いた利用意向では、4割が「できれば(電車の)利用を控えたいと思うようになった」と回答しました。
そしてこのような心理的な「電車離れ」だけでなく、実際の「電車離れ」も起きているようです。電車の利用頻度を聞いた質問では、実に半数以上が「電車の利用頻度が減った」と回答しました。さらに着目すべきは、そのうちの3割強は「今後も(利用頻度は)減ったままだと思う」と回答している点です。つまり、一時的な制約によって電車の利用が減っているだけでなく、持続的な「電車離れ」が起こっていることが分かります。
この背景の1つとして挙げられるのは、テレワークの普及です。電車の利用頻度を、テレワーク実施状況別に見たのが以下のグラフです。「現在テレワークをしている」人の「減ったままだと思う」割合はそれ以外に比べて有意に高く、電車通勤の減少が「電車離れ」の1つの要因であることが分かります。(前回の記事では、電車通勤者の多い地域でテレワーク実施率が高かったことを見ました。また現在テレワークをしていて、今後もテレワークが続く見込みの人がそう答えていると考えられます)
一方テレワークをしていない人であっても、2割強は「減ったままだと思う」と回答しており、テレワークに起因しない「電車離れ」も進行していると考えられます。要因の1つとして考えられるのが、先に挙げた「心理的な電車離れ」です。理屈ではなく、一度でも生理的に「電車=感染リスクが高い=怖い/避けたい」という感覚を持ってしまうと、なかなかその感覚をぬぐえないという人もいるのではないでしょうか。特に車を保有しているなど他の移動手段が使える人は、そちらの移動手段にスイッチしていく可能性も考えられます。またもう1つには、外出頻度そのものが今後も持続的に減るから、という点です。なおこの点については、別の回で改めて見ていきたいと思います。
「車=感染リスクが低い」という新たな価値の発見により、車の利用意向が高まる
ここまで「電車離れ」について見てきました。ここからは、電車離れの一方で起きている「車の再評価」について見ていきたいと思います。「感染リスクが高い」という点で電車の評価が下がったのと同様に、他人と接触しない「車」は「感染リスクが低い」という、今までになかった観点で評価されるようになりました。自由回答では以下のようなコメントが寄せられました。
- 自家用車での移動は感染面では安全なのだと思った(45-49歳女性)
- 他人と一緒の空間にいることへの不安が高まったためマイカー移動が安心する(25-29歳女性)
- 自家用車がいいと思う。公共の交通機関は、どんな人と隣り合わせになるかわからない。(55-59歳女性)
車保有者に車の利用意向を聞いた質問では、24%が「今まで以上に利用したいと思うようになった」と回答しました。
車保有者の2割が「利用頻度が増えた」と回答
利用意向の高まりは、実際の利用頻度の増加にも結び付いているようです。車保有者に車の利用頻度について聞いたところ、2割が「利用頻度が増えた」と回答しました。地域別に見ると、この割合が最も多かったのが東京で、3割強が「利用頻度が増えた」と回答しました。元々車の利用頻度が低く、電車など他の移動手段への依存度が高い地域で特に利用頻度が上がったと言えます。(元々車への依存度が高い地方では、外出頻度が減る中で今以上に車の利用頻度が上がることは考えづらく、上がり幅が低いのは当然と言えます)
見直される車の価値、「車を持っていてよかった」
「感染リスクが低い」ことの他に、次のような点においても車を評価するコメントが寄せられました。
自由に移動できる
- どこへでも自由な時間に利用できる(35-39歳男性)
- 車はやはり必要、移動の自由は必要と感じた。今までより強く感じた(40-44歳男性)
- 移動に制限があるのはストレスがたまる(35-39歳女性)
(パンデミックのような)緊急時でも利用できる
- 東京だと車は必要無いと思って来たが、車の利便性は緊急時程際立つ(50-54歳女性)
- 車持ってなくても公共の交通手段とか自転車とかで十分だと思ってたが、今後コロナなどの病気やその他の理由で公共の交通手段が使えない場合の移動手段として、あったら便利だなと思うようになった(50-54歳女性)
快適
- 車での移動が快適に思えるようになった(50-54歳男性)
- 個人の空間になる(25-29歳男性)
今まで当たり前のように使っていた公共交通機関での移動に制約や不安が生じる中、改めて車の価値を実感する人が多かったようです。また車の利用頻度が増えたことで、車の利便性や快適性に改めて気づいたという側面もあるのではないでしょうか(車の利用頻度が増えた人の多くが「今後も増えたまま」と回答しているのは、この利便性・快適性の再確認があったからだとも言えそうです)。またこのように車の価値が見直される中、「車を持っていてよかった」と感じたというコメントも寄せられました。
車を持っていてよかった
- 車は必須。あって良かった(55-59歳女性)
- 移動手段として車が使えるのはいいことだと感じたので、元々持っていてよかったと思いました(25-29歳女性)
- 車があることで、外出時の他人との接触を減らすことができ安心できた。車は維持費がかかるため手放すことを考えていたが、やはり必要なものだと実感した(25-29歳女性)
車を持っていない人の8%が「元々(車は)いらないと思っていたが、ほしいと思うようになった」と回答
車保有者が「車を持っていてよかった」と改めて感じるのと同様に、今車を持っていない人からも、「車があればよかった」と感じたというコメントが寄せられました。
- 交通の便が良い今の家に引っ越した時に車を処分してしまったが、このような状況ではマイカーがあった方が安心便利だと思うようになった(50-54歳女性)
- 電車に乗りたくないので、自分専用の車が欲しくなった(45-49歳女性)
アンケート内では車を持っていない人に「車を保有したい」という気持ちに変化があったかどうかも聞いており、結果は以下のようになりました。
75%は「元々いらないと思っていたし、その気持ちは変わらない」と回答していますが、8%は「元々いらないと思っていたが、ほしいと思うようになった」と回答しました。8%を多いと見做すか少ないと見做すかは人によると思いますが、若者を中心に世の中の流れとして「車離れ」が進んでいたことを考えると、少なくはない割合なのではないでしょうか。もちろん車は高額な買い物なので、すぐには購買に結びつかない可能性もありますが、長い目で見ると今回のコロナ禍が「車離れ」に一石を投じたと言うこともできそうです。
まとめ
今回、以下のことを見てきました。
- テレワークの普及や心理的な抵抗感等により「電車離れ」が進んでいる
- 「車=感染リスクが低い」という新たな価値の発見により車の利用意向が高まっており、実際に車保有者の2割は「車の利用頻度が増えた」と回答した
- コロナ禍において車の価値が見直されており、「車を持っていてよかった」と改めて感じる人もいる
- 車非保有者の8%は「元々(車は)いらないと思っていたが、ほしいと思うようになった」と回答した
次回は、「住まいに対する考え方の変化」について考えてみたいと思います。
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弊社プレスリリース:イード、『With/Afterコロナにおける働き方・住まい・移動・個人情報に関する調査』を発表