コンテンツ戦略とUXライティング
コンテンツ戦略はコンテンツに関連するプロセスに焦点を当てる一方、UXライティングはテキストを通じてユーザーエクスペリエンスをかたちづくる。この2つの分野は協調して機能する。
業務内容やUXチーム内でしばしば混同されがちだが、コンテンツ戦略とUXライティングは同じものではない。これらは相補的な関係にあり、共に連携してユーザーエクスペリエンスの向上に寄与する。そして、コンテンツ戦略には多くの作業と集中が必要であり、UXライティングにも多くの作業と集中が求められる。
コンテンツ戦略とUXライティングの定義
この記事では、コンテンツストラテジストとUXライターの役割の違いを概説し、両者が必要かどうかを判断する手がかりを提供する。
コンテンツ戦略は、UXライターとコンテンツデザイナーの連携を促し、目的を共有し、役割を明確にしながら、基準を確立し、ワークフローとツールを管理することで、彼らをサポートして、業務の円滑な遂行を支援するものである。
コンテンツ戦略とは、コンテンツを通じて時間をかけて特定の目的を達成するための意図的な計画、実践方法、プロセスを設定することである。
Kristina Halvorson著『Content Strategy for the Web』
コンテンツ戦略は、あらゆるフォーマットやチャネルにおける、コンテンツの計画、配信、メンテナンスに焦点を当てる。関連性はあるが、コンテンツ戦略は本質的にUXライティングとは異なる。
UXライティングとは、人々を体験へと導く、明確、簡潔で、文脈に適したコピーを作成することである。
UXライティングの対象には、以下のようなあらゆるテキスト情報が含まれる:
コンテンツ戦略:コンテンツの品質と制作効率の向上
コンテンツ戦略の主な狙いは以下のとおりである:
- コンテンツがターゲットオーディエンスと企業の双方の目的を達成できるようにする
- コンテンツ作成プロセスやスタイルガイドなどの基準を策定して、コンテンツ作成者(UXライターやコンテンツデザイナー)の効率を向上させる
- コンテンツの品質と、コンテンツ改善の取り組みの効果を長期的に追跡する
このように、コンテンツ戦略には広範な狙いがある。また、この中には含まれない活動(たとえば、実際のコンテンツのライティングなど)も存在する。
コンテンツストラテジストの業務
コンテンツストラテジストは、アナリティクスツールやコンテンツに特化したユーザビリティテスト、アンケート調査などを活用して、コンテンツに対する社内外のニーズやコンテンツの有効性を把握し、測定し、共有する。UXリサーチャーやUXライターも、こうした活動に参加することが多く、そうすることで調査結果を自身の業務に活用することができる。コンテンツストラテジストはまた、複数のプラットフォームにわたるコンテンツの公開と管理、さらにバックエンドのコンテンツ管理も監督する。
コンテンツストラテジストが用いる手法には以下がある:
- コンテンツインベントリーと監査:定期的な監査により、どこにどのようなコンテンツが存在しているのかを把握できる。そうすることで、コンテンツを通じた目的達成に向けて、計画をどこでどのように修正すべきかがわかりやすくなる。そして、監査を行うことで、コンテンツが効果的で、関連性があり、最新の状態に保たれていることを確認して、関連性がなくなったコンテンツを(最終的に)削除することもできる。
- コンテンツオペレーションとワークフロー:コンテンツストラテジストは、コンテンツの公開を計画するための編集カレンダーを作成し、段階的なワークフローを管理し、コンテンツプロセスにツールを導入して、具体的な目的の達成を支援する。
- コンテンツの構造化:コンテンツストラテジストは、さまざまなチャネルやフォーマットで再利用可能な拡張性のあるコンテンツシステムをデザインする。情報アーキテクチャの手法を活用してコンテンツのタクソノミーを確立し、新しいコンテンツをその体系にどのように組み込むかを決定し、異なるプラットフォーム間で効率的にコンテンツを拡張または再利用する。
特定のコンテンツタイプ向けのコンテンツ戦略
特定のコンテンツタイプごとに、専用のコンテンツ戦略を策定して取り組むこともできる。たとえば、マーケティングコンテンツの戦略を担当するコンテンツマーケティングチームを持つこともできる。別のコンテンツ戦略チームが製品関連のコンテンツを担当することもできる。
コンテンツ戦略の各サブ分野における具体的な目的、ワークフロー、評価基準は、その分野の特性に応じて若干異なる。しかし、取り組む活動の種類は同じである。
コンテンツマーケティングの指標 | 製品コンテンツの指標 |
---|---|
トラフィック ソーシャルメディアのフォロワーやリアクション エンゲージメントの指標 コンバージョン リテンション(維持)やチャーン(解約) | 利用 タスクの時間 タスクの成功 満足度 |
カスタマーエクスペリエンス全体を支援するコンテンツ戦略を開発する場合でも、カスタマーサポートやマーケティングなど特定の分野に焦点を当てる場合でも、コンテンツ戦略とUXライティングは依然として別個のものであり、両者は連携する必要がある。
UXライティング:言葉と(ユーザーの)悩みへの取り組み
「UXライティング」という言葉は「コンテンツ戦略」よりもわかりやすいが、UXライティングとコンテンツ戦略の関係性を明確に理解していないUX専門家は少なくない。UXライターは、簡潔で、ユーザーが体験を通じて目的を達成できるように導くコピーの作成に注力している。
UXライターが作成するコピーは、ユーザーの疑問に答えられるように特に調整されており、ユーザーがマーケティングメッセージや製品、サービスとやりとりする際に直面するイライラや課題、問題点を緩和したり、防止したりすることが可能だ。
UXライターは、コンテンツストラテジストが設定したプロセスやツール、フレームを活用することで、自身の仕事を効率的に、一貫性をもって遂行し、さらに企業全体のより大きな目的や基準に沿ったものにすることができる。
UXライターの業務
UXライターの主な業務は次の通りである:
- コピーの作成と編集
- コンテンツの公開
したがって、優れたUXライターになるために必要なスキルには以下のようなものがある:
- 適切な文法の知識と細部に至るまでの注意力
- ライティングに慣れていること
- ユーザー調査、アイデア出し、デジタル製品向けライティングのベストプラクティスに関する知識
- 検索エンジン最適化のスキル
- コンテンツ管理システムの仕組みに関する知識
さらに、UXライターは以下の点に重点的に取り組んでいる:
- 明瞭さと簡潔さ:UXライターは、(表示形式やコミュニケーションチャネルを問わず)アクションや情報を伝えるための明瞭かつ簡潔なコピーを、(コンテンツストラテジストが設定し、共有し、測定する)ユーザーの期待や企業の目的に沿った方法で作成する。
- 一貫性:UXライターは、スタイルガイドラインを遵守し、すべてのインタラクションポイントで企業の個性を一貫して表現し、意図したユーザー感情を喚起する。また、コンテンツが常にすべてのユーザーにとってアクセシブルで包括的であるようにする(基準はコンテンツストラテジストとUXライターが協力して設定し、共有し、適用する)。
- デザイナーとの連携:UXライターは、UIデザイナーやプロダクトデザイナーと密接に協力してコピーの作成や推敲を行う。理想的には、プロセス初期の段階で、そうした作業を直接デザインツール内で行い、コンテンツに焦点を当てたユーザビリティテストで効率的かつ的確なフィードバックを得ることが望ましい(プロセスとツールは、コンテンツストラテジスト、UXライター、デザイナーとの連携を通じて文書化され、共有され、適用される)。
コンテンツデザインとは
コンテンツデザインはUXライティングと密接に関連しており、コンテンツを、視覚的に魅力的で、アクセシブルかつ使いやすい形で構造化して、フォーマット化し、提示する作業である。
UXライターはコンテンツデザインを行うこともあれば、UIデザイナーやプロダクトデザイナーと連携してデザインやレイアウトを担当することもある。コンテンツデザイナーは通常、ライティングとデザインの両方のスキルを持ち、以下のような業務を担当する:
- 情報アーキテクチャ:サイトやアプリの構造における、コンテンツの論理的な整理
- ワイヤーフレームとプロトタイプの作成:テキスト、画像、音声、動画、グラフィックを含むコンテンツレイアウトの視覚表現の作成
- 構造化とフォーマット化:メッセージの重要度順による整理、フォーマット技術(たとえば、見出しと小見出しの明確な区別、適切なスペース、余白の使用、箇条書き、強調表示など)の確実な適用
相違点と補完関係
コンテンツ戦略とUXライティングは密接に関連しているが、異なる役割である。企業によっては、コンテンツストラテジストがUXライティングを「担当する場合もある」が、役割が明確に分けられている企業もある。
領域 | コンテンツ戦略 | UXライティング |
---|---|---|
プロセスとツール | プロセス、ワークフロー、ツールの設定と適用 | プロセスやツールの変更への対応とそれらへの影響力の発揮 |
調査 | ユーザー調査とステークホルダー調査の支援と実現 | テスト用のコピーのバリエーションの作成とデザイナーとの連携 |
目的と指標 | コンテンツの目的と指標の共有、進捗状況の追跡と報告 | 目的を達成するためのコピーの作成と修正、フィードバックに基づく反復作業 |
技術システム | コンテンツ管理システム(CMS)の機能の理解と伝達 | ライティングとコンテンツデザインにおける、システムの機能の活用 |
基準とガイドライン | スタイルガイドやコンテンツ基準の監督と維持 | ライティングにおける基準の採用と遵守、更新への貢献 |
ライティング支援ツール | 品質と効率性向上のための新しいツールの探求と実装 | ツールの使用、改善のためのフィードバックの提供 |
レビューと編集 | レビューの頻度と、承認に関わる役割の設定 | レビューの実施、ユーザー中心の視点からの修正の実施 |
公開とメンテナンス | コンテンツの公開とメンテナンス作業の準備、公開担当者のトレーニング、監査の調整 | SEOのためのメタデータの作成、最終レビューの実施 |
指標とフィードバック | フィードバックの収集・報告、インベントリーと監査の基準の策定 | 指標とフィードバックに基づくコピーの変更と新しい文書の作成、監査への関与 |
コンテンツの廃止 | コンテンツ廃止プロセスの策定 | リダイレクトやコンテンツの再利用、アーカイブ、廃止時の統合の支援 |
コンテンツ戦略はライティングのみにとどまらないし、UXライティングも情報を伝達するだけのものではない。それぞれの役割が複雑で、膨大な作業を伴うため、コンテンツ戦略とUXライティングを1つの役割で担うのではなく、2つの独立した役割として力を入れる企業も増えてきている。
コンテンツストラテジストとUXライターの連携
コンテンツストラテジストとUXライターの連携は、一貫したユーザーエクスペリエンスを創出するために不可欠である。コンテンツ戦略とUXライティングは、以下の方法で互いの強みを活用しあうことができる:
- ユーザーニーズの理解の共有:調査に基づき、コンテンツとプロセスがユーザー、ステークホルダー、ライターのニーズに合っていることを確認する。
- 基準の一貫性:協力して、一貫性を確保するためのガイドラインを定義し、策定し、維持する。
- フィードバックループ:フィードバックを活用して、コンテンツや内部プロセス、基準の改善につなげる。
参考文献
Halvorson, Kristina & Rach, Melissa. (2012). Content Strategy for the Web. New Riders.