UXとマーケティング:
ビジネス目標とユーザー支援のバランス

ユーザーへのアプローチの違いや優先順位の違いから、UXチームとマーケティングチームの間には避けられない対立関係がある。しかし、両チームが連携することで、その対立に対処する効果的な解決策を見出せる。

マーケティングとUXには数多くの共通点がある。どちらの分野もユーザーに焦点を当てているが、その視点は異なっている。マーケティングは、ブランド認知や企業が提供する特別なサービスを通じて、製品の知覚価値を高めることを目的としている。UXの目的は、インタラクションコスト(ユーザーがタスクを完了したり目標を達成したりするのに要する精神的および肉体的な労力の合計)を減らすことだ。どちらの視点もそれぞれ、ユーザーにとっての製品の期待効用を高めるものである。つまり、製品やサービスを購入者やユーザーにとって望ましいものにすることを目指しているのである。

では、UXチームがマーケティングチームと効果的に協力し、関係を最大限に深めるだけでなく、お互いを支援するにはどうすればいいのだろうか。それは、それぞれの分野の目的を理解することから始まる。

一般的に、マーケティングには、製品の販売促進に関わるものを指し、そこには、市場そのものを理解し、潜在的な顧客を引きつけ、すでに製品と接して利用しているユーザーをさらに引きつけることも含まれる。

一方、ユーザーエクスペリエンスでは、ユーザーが企業やそのサービス、製品と触れ合うすべてのタッチポイントを総合的に理解し、デザインすることが必要だ。タッチポイントとは、ユーザーと組織の間のすべてのインタラクションポイントのことで、あらゆるチャネル(モバイルアプリ、ウェブサイト、実店舗、テレビ広告、郵便物など)で発生する可能性がある。これは人間中心のデザインアプローチであり、ユーザーが製品とインタラクトする際に、タスクを完了させ、ゴールに到達することを支援することに重点が置かれる。

マーケティングとUX:共通点

マーケティングとUXは表裏一体だ。マーケティングの専門家は、多くの場合、顧客獲得に関わるビジネス目標を重視する。一方、UXの専門家は、ユーザーエクスペリエンスと満足度を重視し、それらについてあれこれと考える。おのおののチームは、自分たちの主たる目標に集中するためにそれ以外の重点分野を犠牲にすることもある。チームの成熟度や2つのチームがどのように連携するかにもよるが、通常はそれで問題ない。そうすることで、この2つのチームは補完しあい、バランスを取ることができるからだ。

手法

マーケティングチームもUXチームも、活動の動機は人間の行動パターンを理解することだ。その結果、ユーザーの行動を理解し表現するためにそれぞれの分野が採用する方法論には多くの共通点がある。

マーケティングチームもUXチームも、ユーザーインタビューアンケートエスノグラフィー調査フォーカスグループなどを実施することが多い。しかし、両者はそれぞれ調査対象にしている行動や態度が違うため、調査課題は異なる。

マーケティングもUXも、ジャーニーマップペルソナのようなアーティファクトを利用して、チームが、ターゲットオーディエンスや、彼らと製品との(潜在的または実際の)インタラクションを理解できるようにする。 

ただし、同じ製品であっても、マーケティングとUXでは、ターゲットオーディエンスが異なることもある。たとえば、製品が小学生向けのEdTech(エドテック)アプリケーションだとしよう。そこでのUXの対象者は、アプリを操作する人なので、小学生を代表するようなユーザーペルソナを作成することになるだろう。一方、マーケティング専門家の場合、ターゲットオーディエンスはアプリの購入者であるため、学校関係者や保護者を代表するようなバイヤー(購入者)ペルソナを作成すると考えられる。なぜなら、マーケティングの専門家は、製品を購入者にどのように宣伝し、販売するのがベストなのかを重点的に考えるからだ。

複数のステークホルダー

UXチームとマーケティングチームは、さまざまなステークホルダーから情報を得る必要がある。UXの専門家は、通常、製品チームや技術チームと連携して作業を進める。製品開発プロセスにおいて、UXチームはユーザーを代表するという責任を負い、製品がユーザーのニーズを確実に満たすように取り組む。

その一方、マーケティングチームは、営業チームと密接に連携を取る。営業担当者は、通常、潜在顧客が最初に接する相手である。営業チームと連携することで、マーケティングチームは潜在的な購入者をより効果的に引き込むことができる。マーケティング資料などのエンゲージメントのための取り組みに対するリアルタイムのフィードバックが得られるようになるからだ。

ブランドロイヤルティの構築

マーケティングもUXも、顧客維持率の向上を重要視する。しかし、ブランドロイヤルティを生み出すためのアプローチは、両チームで異なる。たとえば、マーケティングチームは、インセンティブや割引、特別なアクセスを提供することで顧客を維持しようとするだろう。UXチームは、使いやすさやすべてのチャネルにわたるシームレスで苦痛のないインタラクションに重点的に取り組むかもしれない。というのも、多くの場合、こうした品質によって、ブランド信頼性とロイヤルティは育まれるからだ。

マーケティングとUXの対立

多くの類似点がある一方で、この2つの分野は主にユーザーや顧客に対する優先順位やアプローチの違いからある種の対立関係にある。

マーケティング要素によってUXが低下することがある

マーケティングは、多くの場合、ユーザーから情報を得て、個々のユーザーにぴったり合ったマーケティングキャンペーンを行うことを目標としている。その際、スムーズなユーザーエクスペリエンスに反するデザイン手法を用いることがある。たとえば、ランディングページにポップアップを入れることを選ぶことがある。そのポップアップで、連絡先の情報や顧客からのフィードバックを求めたり、メーリングリストへの登録と引き換えにプロモーションを提供したりするのである。こうした手法は、潜在的な顧客ベースを構築する行為であるリードジェネレーション(見込み客の創出)にとって重要ではある。しかし、このようなポップアップはしばしばユーザーの邪魔になり、モーダルの背後にあるコンテンツを見たりインタラクトしたりする妨げになる。さらに悪いことに、これらの要素は流れの中で何度も表示されることが少なくない。

マーケティング目標がユーザー調査の目標を侵害することもある

費用を節約するために、多くの組織がユーザビリティテストの調査にマーケティング上の目標を組み込んでいる。これは一石二鳥で、理想的なように思えるかもしれない。しかし、マーケティング的な手法を入れることによって、ユーザーに偏見を与え、調査結果を台無しにしてしまう可能性もある。

たとえば、あるECサイトのUXチームが、分析データを通じて、ユーザーが決済プロセスのある時点でカートを放棄していることを知ったとしよう。そこでチームは、ユーザビリティテスト調査をして、その行動の理由を把握しようとした。しかし、同じ組織のマーケティングチームは、この機会を利用して、関連商品のキャンペーンを盛り込むことの影響を知りたいと考え、ユーザーの流れを中断させてキャンペーンに関する質問をすることを主張したのである。言うまでもなく、このような質問はユーザーにバイアスをかけやすく、調査の全体的な外部妥当性とUX関連の調査結果の質を損なう可能性がある。

とはいうものの、ユーザー調査内でもマーケティングの目標に対応することは可能だ。だが、その方法が適切でなければならない。1つ考えられるやり方として、ユーザーテストのパートから始めて、マーケティング目標に取り組むインタビューで調査を終えるといいだろう。

組織ではUXよりマーケティングが優先されることが多い

市場調査は通常、製品開発や製品アップデートの前に実施されるが、UXの調査手法は製品開発のライフサイクルを通してずっと利用することが可能だ。その結果、組織の優先順位では、市場調査がUXに先んじるのが一般的といえる。こうした場合に、インタフェース要素のテストにマーケティング調査の手法が不適切に利用されることがある。

マーケティングチームは、フォーカスグループアンケートを通してユーザーからの自己申告に強く依存している。一方、UX調査チームは、ユーザーの行動を観察する方法を取ることが多い。その結果、フォーカスグループのような伝統的なマーケティング調査の手法が、ユーザーインタフェースの評価に不適切に使われることもある。

たとえば、マーケティングの専門家がフォーカスグループでターゲットユーザーにあるインタフェース要素とどのようにインタラクトするのか、あるいはある製品を購入するかどうかを尋ねることが考えられる。UX調査において、ユーザーの「言う」ことが必ずしも彼らが何を「行う」かの指標にはならないことを我々は学んできた。コンテキストから切り離されたときのユーザーの回答は必ずしも信頼できるものではないからだ。また、ユーザーは集団思考によって、ある答えをしなければ、というプレッシャーを感じることもある。そのため、UXリサーチャーは、ユーザーに何をするかを尋ねる代わりに、ユーザビリティテストを通じてユーザーの行動を観察することに時間を費やすべきなのである。

UXとマーケティングの連携

UXは比較的若い分野である。さらに、UXの成熟度が低ければ、この2つの分野の区別にスタッフが戸惑うのも無理はない。両者の役割分担が不明確だと、チームは孤立感を覚えたり、縄張り意識を持ったり、自部門のことだけを考えた仕事の仕方になる可能性がある。

そこで、UXチームとマーケティングチームが効果的に連携するための方法を4つ紹介する:

1. コミュニケーションを増やしてサイロ化を防ぎ、お互いに教育しあう

マーケティングチームとUXチームは、たとえば、毎月ミーティングを開いて最新情報を共有するなど、互いに常にコミュニケーションをとる必要がある。そこでマーケティングは進行中のマーケティングキャンペーンについて開示していく方法を探ることができるし、UXはマーケティング担当者を関連する製品会議に呼ぶことができる。こうすることで、両チームは情報を共有して、重複部分を確認し、積極的にそれに対処していけるようになる。

また、両方のチームはこうした交流を、対立しがちなお互いの優先事項について教育しあうきっかけにすることもできる。意見の相違が生じた場合にはそれを解決する方法について話しあい、相手チームが何に重点を置き、どのように調査を実施しているのかについてさらに理解を深められる。たとえば、マーケティングチームのメンバーが、あなたが取り組み中の次の調査について知り、マーケティング向けのデザイン要素のテストもやりたがった場合、このミーティングを利用して、そうしたやり方は現在の調査目標の妨げになる可能性があることを説明し、代替案について話しあうことができる。あるいは、マーケティングチームがフォーカスグループでUI要素を見せることを計画している場合、ユーザビリティテストのほうが良い理由をそのチームメンバーに教えることができるだろう。

2. 調査の知見を共有する

マーケティングは、現在の市場に関する情報を収集する。この情報は、UXが潜在的なユーザーベースから予想される幅広いパターンを理解するのに役立つ。一方、UXチームはよく最初の印象に関する情報を収集するが、こうした情報はさまざまなマーケティングキャンペーンをデザインしたり、評価したりする際に有益である。たとえば、ユーザビリティテストでは、ウェブサイトで提示される製品発売キャンペーンに対するユーザーの最初の反応を知ることができる。これは、マーケティングがキャンペーンに関する定性的な知見を得る好機だ。両方のチームは、自分たちの調査の結果を社内のイントラネットに掲載したり、定例ミーティングで共有したりすることを考えてみるべきなのである。

3. 共通のペルソナをデザインする

マーケティングチームとUXチームが既存ユーザーを支援したり、新規顧客を獲得したりする際、重複する部分があることはすでに述べた。そこで、両者の連携を確実なものにするために、新製品の潜在顧客でもある現在のユーザーのペルソナを1つデザインすることを検討するとよい。この共通のペルソナは、両チームで利用することが可能だが、マーケティングとUXのそれぞれのペルソナに取って代わるものではない。むしろ、チームがユーザーについて総合的に考えるための追加的なペルソナであることが望ましい。

4. 重要業績評価指標(KPI)をすりあわせる

「目標を達成するために『チーム』が優先すべきことはこれだ」というふうに思い込んでしまうチームは多い。さらに、往々にしてチームによって最適化しようとしている目標や指標は異なる。そのため、マーケティングとUXの上層部は、連携を促進するために、KPIのすり合わせを検討すべきである。優れたUXは、売上やコンバージョンを向上させる。同様に、新規顧客の獲得はビジネスの成長を助け、製品やサービスとの新たなインタラクションのデザインに活かせる情報をもたらしてくれる。

結論

ビジネスの成長を促進し、顧客のニーズを満たすためには、結局のところ、強力なマーケティングと強力なUXの両方が必要だ。潜在的なユーザーを納得させるためであれ、ユーザーがタスクを完了するのを支援するためであれ、この2つの分野で行うことの核となるのは、ユーザーを理解することである。マーケティングチームとUXチームが効果的かつ意図的に連携することで、この2つのチームはうまく共存できるだけでなく、ユーザーを支援し、ビジネスを成功に導くことができるようになるだろう。

参考文献

Kathleen W. Guan, Joni Salminen, Lene Nielsen, Soon-Gyo Jung, and Bernard J. Jansen. 2021. Information design for personas in four professional domains of user experience design, healthcare, market research, and Social Media Strategy. Proceedings of the Annual Hawaii International Conference on System Sciences (2021), 4446–4453. DOI: http://dx.doi.org/10.24251/hicss.2021.540