UXデザインをするならこの本を読もう! 安藤先生のおすすめ書籍
ユーザー志向のものづくりの実践~安藤昌也氏(番外編)
UXデザインを手がけるときに参考になる書籍を安藤先生に紹介してもらった。人間中心設計、インタビューの仕方、ペルソナの作り方、UIデザインのための心理学に関するものなど、いずれもUXデザインのヒントにつながりそうな本ばかりだ。
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安藤先生へのインタビューの番外編。インタビューの間、背面の書棚がとても気になったので、UXデザインを手がけるときに参考になる書籍を紹介してもらった。いずれも、UXデザインの教科書として、机の上に置いておき、機会があるたびにめくってみるとUXデザインのヒントにつながりそうだ。
聞き手: 株式会社イード リサーチ事業本部HCD事業部
ホルツブラットは原典として読む。ペルソナなら『UXデザイン入門』を参考に
──先生の本棚には多数の書籍がありますが、UXデザインを実践する現場で参考にできる文献を教えてもらえますか。
論文執筆中で今は参考文献を持ち出しているので、ぱっと見せられる本が少ないのですが、Karen Holtzblattの“Contextual Design”。英語の書籍で読むのが少し大変ですが、基本の教科書です。HoltzblattはUXデザインのオリジナルではないのですが、コンテクスチュアルデザインとして体系化したことがHoltzblattの業績です。UXデザインで推進していることは、コンテクスチュアルデザインの流れと考えてまちがいありません。原典として読んでほしいです。
ペルソナを提案するときにはペルソナを理解する必要があります。ペルソナはAlan CooperとKim Goodwinが考えて、ペルソナの作り方は、“Designing for the Digital Age: How to Create Human-Centered Products and Services”に書いてあります。しかし、この方法は正しく日本に伝わっていません。“Designing for the Digital Age”が想定しているペルソナの作り方が唯一日本語で書かれている書籍は、『UXデザイン入門』です。薄い本ですが、ペルソナの作り方を提案した人が、ペルソナをどう作ればいいのだろうかと考えていたことがわかります。
──ペルソナ設計ではどういったところが日本に正しく伝わっていないのでしょうか?
ペルソナがあって、ようやくデザインができますが、ペルソナの表現方法とペルソナの最適な使い方のタイミングが以前と異なっていて、最近は正しく使われていないことが多いように感じます。
ペルソナは1人ではなく複数作ることに意味があります。1人分作ることも大事ですが、複数のゴールがあって、全体をうまくパターニングすることも大事です。最近は技術が発達しているので、熟達した人がさらにその先をよりよく使うためのユーザーモデルをもう一つ作り、複数のモデルでUXデザインを考えています。
適当なペルソナでも体験は作れます。ところが、実サービスを展開していくと、やがて限界がきます。ペルソナをUXデザインで正しく使うためには、ペルソナを適用する方法をしっかり整理して、ペルソナの作り方を変えていきます。
過去の事例ですが、とあるニュースキュレーションサービスを提供している会社では、開発中にペルソナと既存ユーザーとの間にギャップが出てきました。アジャイルで開発しているときは、ペルソナとのギャップが出てくることは悪いことではありません。しかし、ギャップがあるまま進めるとUXデザインの戦略的に大きな課題が残るので、ギャップの対処方法を検討します。
対処方法を考え直していくと、ペルソナをどういうタイミングでどういうものを作っていかなければいけないのかということも考え直すことになります。そこで、もう一度リサーチをして体験価値を構築し直します。このとき、既存のUXをエクストリームユーザーに適用してリサーチをするのですが、エクストリームユーザーの体験価値の中には、より初心者向けの体験価値とエクストリームな体験価値が内在していることが見えてきます。そこで、初心者とエクストリームユーザーの両方のペルソナを作ります。
複数のペルソナが完成したら、それぞれのペルソナの価値を実現する方法とサービスの高度化方法を判断します。本来、こういうことにペルソナを使わないといけないのですが、中途半端にペルソナを使っていることが多く見受けられて、正直もったいないです。
ここで紹介した方法は僕のペルソナの作り方ですが、『UXデザイン入門』にはペルソナの作り方がきちんと書いてあります。
手法ではなく、適用目的を見出す。『人間中心設計の基礎』を参考に
そして、黒須先生に敬意をはらって『人間中心設計の基礎 第1巻』。方法はたくさん出てきますが、その方法が何に適用できるかを見抜いてほしいのです。僕は、目的に応じてやり方を毎回作っているので、「なんとか法」という名前は付けていません。系譜やコアになっている手法はありますが、特定の手法にはこだわっていません。
代表的な手法はわかりやすくて学びやすいのですが、手法どおりに実行するだけでいいものができるのであれば、みんなが幸せになりますよね。手法では、ある程度までは理解できますが、そこから先ができて、はじめて完成につながると思います。方法論を学んだら、それにこだわらずに目的に応じてモディファイしてほしいです。そして、本はたくさん読み、読んだら実践して、実践したら改善して、自分のやり方にしてほしいです。
さらに、インタビューに特化した本では、『メンタルモデル ユーザーへの共感から生まれるUXデザイン戦略』という本があります。これは、メンタルモデルの作り方ではなくてインタビューの仕方を解説しています。
──先生の話をうかがっていると、社会学や行動論も知識としては大事だと感じました。この分野でおすすめはありますか?
よく紹介するものとしては、『インタフェースデザインの心理学 ―ウェブやアプリに新たな視点をもたらす100の指針』があります。モチベーションを扱っている本なので、大学院生にも読ませています。
最近では、『スマホに満足してますか? ユーザインタフェースの心理学』と、『Design Rule Index[第2版]― デザイン、新・25+100の法則』という本があります。これらは大学院の教材としてはいいのですが、内容が分断してしまうので読み比べてみてください。
そして、チクセントミハイの『モノの意味―大切な物の心理学』は読んでおいたほうがいいです。読むのはちょっと大変かもしれませんが、日本語訳があります。