『UXリサーチの道具箱』
製品・サービスの創出に重要な考え方を示唆してくれる書籍
日本を代表するUXリサーチャ・樽本徹也さんの最新作『UXリサーチの道具箱-イノベーションのための質的調査・分析』は、「ユーザを知るために、こんな道具(手法)があるんだ」と知るためのとっかかりとしておすすめの書籍です。
2018年4月25日に発売された『UXリサーチの道具箱-イノベーションのための質的調査・分析』は、UXリサーチの分野で日本を代表する実践家である樽本徹也さんの最新作です。なお、樽本さんは、長い間、弊社でユーザビリティエンジニアリング業務をなさってから独立された方です。
この『UXリサーチの道具箱』では、ユーザ調査の概論から始まり、その後7つの章にわたって「正しい製品」を作るための「道具」として調査・分析手法が紹介されています。
あとがきでも述べられていますが、この本はユーザ調査の理論とプロセスを解説した「方法論」ではなく、個別の手法に焦点を当てた「道具箱(手法集)」です。「ユーザを知るために、こんな道具(手法)があるんだ」と知るためのとっかかりとしておすすめの書籍です。
『UXリサーチの道具箱』の概要
本書は、全8章で構成されており、チャプター2からの本題である「7つの道具(手法)」が紹介されています。
チャプター1:ユーザ調査概論
ユーザ調査の概論が述べられています。ユーザ調査といっても、ユーザの「声」を聞けば良いのではなく、ユーザの「体験」を聞くべきだと述べられています。ユーザは分析者でもデザイナーでもないので、ユーザの声に応えても良い「体験」を提供するのは困難なためです。
そういったユーザの「体験」を把握する場合、アンケート調査は適していないため、ここでは、コンテクスチュアルインクワイアリーが紹介されています。コンテクスチュアルインクワイアリーとは、ユーザを師匠、インタビューアを弟子として、師匠の体験を弟子に継承する形式で進めるインタビュー手法です。
また、「調査」と「評価」の違いについてもここで述べられているので、製品開発として、まず何から始めればいいのかイメージしやすい作りになっています。
チャプター2:ユーザインタビュー
「どのように話を聞くべきか」という、ユーザインタビューの心得について説明されています。インタビュー設計方法も併せて説明されているので、実際に設計してみることもできます。
本書でも述べられていますが、インタビューの設計ができたとしても、そのとおりインタビューしてはいけません。あくまで会話のきっかけを掴むために用意するものです。
この章では、師匠と弟子という人間関係のモデルで、弟子(インタビューア)が、師匠(ユーザ)にどのように話を聞くべきなのか説明されています。師匠(ユーザ)はとても気難しいので、このことに留意しておくと良いでしょう。
弊社で調査を実施する際も、質問の順番など、臨機応変に対応しています。ユーザインタビューを見たことがないと、インタビューされているユーザの振る舞いをイメージしにくいかもしれませんが、ユーザのありのままの体験を理解するには、臨機応変に質問することが重要です。
チャプター3:データ分析
質的データ(インタビューの発言録、観察メモ、写真など)の分析方法について説明されています。方法としては付箋での分析とシンプルなものですが、質的データの分析には非常に有効です。KJ法の手順や分析例も記載されているので、初めてでも質的データの分析イメージが掴みやすいと思います。
付箋での分析は弊社でもユーザ理解ために活用している手法のひとつです。一見「カード化して並び替える」だけのようにも感じられるかもしれませんが、実際に作業を終えたときには、そのものに対する理解が深まっているものと思います。
また、この方法は、ユーザ調査の分析以外にデザイン発想を支援するツールとしても非常に有効で、情報整理をするのに役立ちます。
チャプター4:ペルソナ
設計を支援するために定義する仮想のユーザ像である、ペルソナの作り方や使い方について説明されています。ペルソナの構成要素や、アジャイル開発に役立つ、実用的なペルソナの作り方や使い方が記載されています。名前は聞いたことがあるけど、ペルソナというものがいまいちわからない場合には、その概要が理解できるようになると思います。
チャプター5:シナリオ
ここでは、ユーザの体験を捉えやすくするための様々な「シナリオ」や、視覚化の方法について説明されています。シナリオはユーザの体験を物語形式で表したもので、ユーザの体験について議論するための土台になります。
ペルソナと行動シナリオの作成をすることで、ユーザの要求を整理しやすくなるため、開発チームの製品/サービスのデザインに非常に役立つことでしょう。
チャプター6:ジャーニーマップ
ユーザの体験を可視化する、ジャーニーマップについて説明されています。マップの実際の作り方や要点も記載されています。ジャーニーマップは可視化の方法として非常に有効で、顧客のエクスペリエンスを全体的な視野で捉えることが可能になります。
カスタマージャーニーマップはさまざまな形式になりえるものなので、どのように作るべきか検討することも重要です。
チャプター7:ジョブ理論
クレイトン・クリステンセン氏が提唱した「ジョブ理論」が紹介されています。他の章とは少し変わった内容になりますが、「ジョブ」の考え方はユーザを理解するのに非常に重要なヒントを与えてくれると思いますので、道具の一つとして取り上げられているのも頷けます。「ジョブ」について簡潔にまとめた内容ですので、「ジョブ理論」を初めて知る場合でも読みやすく構成されており、後半ではジョブインタビューについても紹介されています。
チャプター8:キャンバス
ビジネスモデルを作るためのツールとして、キャンバスについて説明されています。キャンバスは、人と製品・サービスの関係や、収益の流れなどビジネスモデルの仕組みを捉えやすくしてくれます。いくつか例も記載されていますので、キャンバスを用いることによって、どういうサービスがどういう人にマッチしているのかイメージしながらビジネスモデルを作りやすくなると思います。
製品・サービスの創出に重要な考え方を示唆してくれる書籍
以上のように、調査の手順に沿って道具の紹介がされているので、通読することによってユーザ調査をあまり知らなくても全体の概要を掴みやすく、ユーザ調査の基本テクニックを知るための入門書として読みやすい書籍です。
また、各章が独立しているので、気になる部分だけ読むという読み方もできる構成になっています。例えば、定性調査の分析をどのようにしているのか知りたい場合にはチャプター3(データ分析)を、ビジネスモデルの開発で悩んでいる場合はチャプター8(キャンバス)を読むことで、該当部分の概要をつかむこともできます。
リサーチャーとして働き始めてまだ数年の私からすると、「働き始める前に読みたかった書籍」という印象です。入門編ということで、最初に知りたかったことが満載です。ユーザに提供する製品・サービスを創出するのに重要な考え方を示唆してくれる書籍だと思いますので、「7つの道具(手法)について、よくわからない」という人に特におすすめです。
なお、ユーザへのインタビュー調査の具体的なやり方については、同じ樽本さんの『ユーザビリティエンジニアリング(第2版)』に詳しく書いてあります。
書誌情報
本書を6名の方にプレゼント
ここでご紹介した『UXリサーチの道具箱-イノベーションのための質的調査・分析』を、著者の樽本さんと出版社のオーム社様のご厚意で、ご献本いただきました。
こちらを抽選で6名の方にプレゼントいたします。
応募方法(6月20日、応募を締め切りました)
- U-Site編集部のTwitterアカウント(@UsabilityJp)をフォローしてください。すでにフォローしてくださっている方はそのままで大丈夫です。
- 下記のツイートをリツイートしてください(どちらか一方でかまいません)。応募は、2018年6月20日(水)正午ごろを目処に締め切る予定です。
- https://twitter.com/UsabilityJp/status/1008547944893575169
- https://twitter.com/UsabilityJp/status/1008963057106673665
6月20日12:40、応募を締め切りました。ご応募いただきましてありがとうございました。
当選後の連絡方法(6月25日、賞品を発送しました)
- 抽選の結果、当選された方には、U-Site編集部のTwitterアカウント(@UsabilityJp)からダイレクトメッセージで、その旨お伝えいたします。
6月20日15:15、抽選の結果、当選された6名の方にご連絡を差し上げました。 - その後、賞品の送付先(氏名・郵便番号・住所)を、弊社(株式会社イード)のコーポレートサイト(www.iid.co.jp)の、U-Siteプレゼント専用フォームからご連絡いただくことになります。いただいた個人情報は、賞品送付の目的のみに利用し、発送後に削除いたします。
6月25日16:30、送付先をご連絡いただいた5名の方に向けて、賞品を発送しました。