グランドチャレンジ(3):
HCIIの考え 1/2

HCIIの総大会長を務めるステファニディスは、シュナイダーマンに刺激を受け、学会としても新たな枠組みを構築しようと考えた。HCIIは各学会の議長たちに呼びかけて行われたブレインストーミングや、その後の意見交換の結果、2019年7月にIJHCIの論文という形にまとめられた。

(「グランドチャレンジ(2): シュナイダーマンの考え 2/2」からのつづき)

最近の動向

今回からHCIIの考え方を紹介するが、その前に、手元にとどいた「ヒューマンインタフェース学会誌」の2019,21(2)で科学技術と社会という特集が組まれていたことを報告しておきたい。前回紹介した原田論文もその特集のなかに含まれている。主に進歩する科学技術の受容、人工知能、それに自動運転関連の内容ではあったが、一度の特集で扱うにはその程度の粒度が適切だっただろう。

ともかく、これはHCIがこれから取り組んで行くべきグランドチャレンジの一つであり、時宜にかなった特集であるとともに、日本でもこのような特集が組まれたことは嬉しいことである。また、同時にグランドチャレンジの他の側面についても継続的な特集が組まれることを期待したい。

また学会としてはAIの本家である人工知能学会は、これに関連した動きを積み重ねてきているし、他方、官においては、2019年3月に、内閣府の統合イノベーション戦略推進会議にて「人間中心のAI社会原則」という報告書がまとめられた。

さらに、科学技術振興機構(JST)では、2019年度新規プロジェクト募集を行っていた(2019/5/8-7/17)。これは、「人と情報のエコシステム」研究開発領域において「本領域ではAI、ロボット、IoTといった情報技術が加速度的に進展する現在、いかにそれら技術が社会に浸透し、人間の暮らしになじんでいくか、またその時どんな問題が起きうるかを考え、新たな制度や技術を設計していくための研究開発を推進しています」というもので、イギリスのUKリサーチ・イノベーション(UKRI)との共同プロジェクトとなっている。

なお、こちらは「UKRI-JST Joint Call on Artificial Intelligence and Society」となっていてAIと社会に焦点をあてており、両国で若干のニュアンスの違いがあるようだ。僕もイギリスの友人から誘いをうけたのだが、所属機関の費用負担が必要なため、名誉教授という立場では参加ができないため諦めた。

またOECD加盟36カ国およびアルゼンチンなど6カ国は、2019年5月に人工知能に関する初の国際的な政策ガイドライン「人工知能に関するOECD原則」を採択した。

このように、AIを中心とする技術の急速な進歩に対して、それが人間と社会にとって有益であると同時に害を及ぼさないものであるようにしようという動きは、世界の官学において進められている。グランドチャレンジは各方面で着手されているのだ。

HCIIのグランドチャレンジ

HCII (Human Computer Interaction International)は、母体をもたない国際会議であるが、総大会長であるギリシャのステファニディス(Stephanidis, C.)は、以前紹介したシュナイダーマン(Shneiderman, B.)のグランドチャレンジに刺激を受け、学会としても新たな枠組みを構築しようと考えた。HCIIは、2つの主題領域(Thematic Area)と16の連携学会(Affiliated Conference)から構成される大規模な大会だが、各学会の議長たちに呼びかけて、2018年の7月にブレインストーミングが行われた。その結果をステファニディスがまとめ、メールベースでそれに対する意見が集められ、さらにそれを集約して2019年4月に論文の原案が作成された。その後も意見交換が行われ、ようやく2019年7月にIJHCI (International Journal of Human Computer Interaction)の論文という形にまとめられた

本稿では、そこにまとまった内容をベースにして、その骨子を紹介したいと考える。なお、HCIIの大会中の7/29には、この内容を紹介する特別セッションが設けられた。

図
図1 7つの課題領域

7つの課題領域へのまとめ

ステファニディスは、ブレインストーミングで出た内容を7つの課題領域にまとめた。図1がそれを示している。それぞれの課題領域についての定義と理論的解釈とが表にまとめられているので、それを翻訳(意訳)しながら筆者のコメントを付けてゆくことにする。

なお、7つの課題の各々についての説明は、次回にまわすことにする。

公開: 2019年8月9日
著者: 黒須教授