グランドチャレンジ(1):
シュナイダーマンの考え 1/2

GUI以後の広義のHCI技術の展開は著しく、この先のことをHCI研究者が模索している状態でもある。そうした潜在的な要求に応えるために、HCIにおいて創造性を支援し、創造性を発揮するにはどうすればいいかを考えたもの、それが、ここで紹介するシュナイダーマンの論文である。

(「幸福のデザインを忘れていませんか」からのつづき)

創造性をさらに促進する

グランドチャレンジ小特集で最初に紹介するのは、ユーザインタフェースの領域で有名なシュナイダーマン(Shneiderman, B.)の考えである。彼は、『ユーザーインタフェースの設計 第2版』(1995)日経BP社刊の著者として有名だったが、今の若い人たちにはあまり知られていないかもしれない。このサイトの読者の方々には、むしろQUIS (1998)という質問紙評価法の開発者として知られている可能性があるだろう。ちなみにQUISが掲載されている『ユーザーインタフェースの設計』の原著である『Designing the User Interface』の方は今のところ第6版(2016)まで出版されているが、翻訳が出るという話は聞いていない。ともかくアメリカのHCI (Human Computer Interaction)分野では、いまだに影響力を持つ人物である。

ここで紹介する彼の論文は、“Grand Challenges for HCI Researchers” (2016) ACM Interactions 23(5), pp.24-25という共著論文だが、元をたどるとRedondo, M., Bravo, C. and Ortega, M. (eds.) (2009) “Engineering the User Interface”, Springerに含まれた“Creativity Support Tools: A Grand Challenge for HCI Researchers”という論文に至る。なお、今回の1/2回は、2009年の論文をベースにして紹介を行い、2016年の論文の内容は次の2/2回で紹介する。

この論文が書かれた背景としては、GUI環境をベースにした平面的なインタフェース設計技術は、すでに飽和状態に近づいていて、残るのはそのきちんとした実践という時代になっているが、GUI以後の広義のHCI技術の展開は著しく、IoTやビッグデータやロボットやAI、自動運転などに花開いているが、さらにその先はどうなるんだ、どうすればいいんだ、ということをHCI研究者が模索している状態でもある。そうした潜在的な要求に応えるために、HCIにおいて創造性を支援し、創造性を発揮するにはどうすればいいかを考えたもの、それがこれらの論文である。

チクセントミハイの影響

シュナイダーマンは、その創造性に関する考え方がチクセントミハイ(Csikszentmihalyi, M.)の『クリエイティヴィティ-フロー体験と創造性の心理学』(2016)世界思想社刊(1996 “Creativity: Flow and the Psychology of Discovery and Invention” HarperCollins)に影響されたと書いている。チクセントミハイが考える創造性のモデルは、領域(domain)、場(field)、個人(individual)から構成される三角形になっている。

具体的にいえば、まず心理学とか美術とか、もちろんHCIもそうだが、そうした活動領域があり、その領域に新規な発想を入れるべきかを判断する社会、すなわち学会だとか演奏会だとか企業組織といった場があり、そうした社会的な関係性のなかに新規な着想を得た個人がいる、ということである。そして三者は動的な関係にあり、個人の新規な着想が学会などで評価されると、それはHCIの領域をさらに進展させ、その展開がまた別の個人の着想を刺激する、というような関係になっている。過去のHCIにおけるワードプロセッサの開発普及も、ドローイングツールの開発普及も、こうした経緯をたどってきたわけである。

現在、我々が日常的に使っているインターネット(正確にはハイパーリンク)も、ハイパーメディアという概念とその試験的な実装がベースになっているし、ハイパーメディアはブッシュ(Bush, V.)のMEMEX (1945)という概念に至る。しかし、MEMEXはブッシュの完全な独創ではなく、マイクロフィルムという発明がそのベースのひとつになっているし、マイクロフィルムは銀塩写真…という具合に、先人の成果を社会のなかで伝搬し活用することで創造性が発揮されていく、というわけである(なお、この例はシュナイダーマンの論文には書かれていない)。

8つの創造的活動

シュナイダーマンによると、(まず個人が行う)創造的活動には以下の8つの活動が含まれており、それぞれを支援する適切で先駆的なツールがあれば、創造的活動はさらに活性化されるだろうということになる。その適切で先駆的なツールを作り出すためにはどのような準備が必要か。それがグランドチャレンジだ、というわけである。

さて、8つの創造的活動、というよりも創造的活動の8フェーズと言った方がいいように思うが、それらは以下の通りである。

  1. デジタルライブラリーを探索しブラウズする
  2. データやプロセスを視覚化する
  3. 同僚や指導者に相談する
  4. 自由連想を発揮して考える
  5. 解を探索する – こんなツールがあれば
  6. 人工物や課題遂行を編成する
  7. これまでのセッションをレビューし、再演する
  8. 結果を(社会的に)広める

この後には、その成果を評価するプロセスが続くわけだが、それは創造的な可能性のある発明をした個人がやるべき仕事ではなく、前出の概念でいえば場としての社会(学会など)の仕事である。シュナイダーマンは、創造性の定量的な評価は困難なので、その後の経緯を観察したり、創造的個人との相互作用をみたりして、何週間か、何ヶ月か、場合によっては何年かをかける必要があるだろうとしている。

創造性支援の原則

2005年にNSF (National Science Foundation)が行ったワークショップで、創造性支援ツールが議論された、という。その結果として、迅速な探索と容易な実験を支援するためのユーザインタフェース設計(デザイン)のための12の原則が提案された。それらは次のようなものである。

  1. 探求を支援する
  2. 低い閾値、高い天井、幅の広い壁
  3. 多様な経路や多様な様式を支援する
  4. 共同作業を支援する
  5. オープンな情報交換を支援する
  6. できる限り単純にする – そしてもっと単純に
  7. ブラックボックスを慎重に選択する
  8. 自分でも使いたいようなものを発明する
  9. ユーザの示唆したことと観察の結果や参加型プロセスとのバランスをとる
  10. 繰り返し、繰り返す – そしてまた繰り返す
  11. 設計者(デザイナー)のために設計(デザイン)する
  12. 自分のツールを評価する

さらに

  1. 創造性支援ツールに関する研究や教育を加速する
  2. 厳密で多次元的な評価手法の開発を促進する
  3. 設計(デザイン)ツールの提供原則によって創造性を支援するユーザインタフェースを再考する

予想される結果

こうした努力を重ねれば、次のような結果が得られるだろうとシュナイダーマンは予想している。

  1. 技術によって支援された創造的プロセスに関する洗練された理論
  2. ユーザ志向的で経験的な研究法に関する活発な議論
  3. 新しいソフトウェアアーキテクチャ、データベース管理戦略、およびネットワーク構築技術
  4. 特に協働的環境における発見やイノベーションを支援する進歩したユーザインタフェース

まとめとして

シュナイダーマンのグランドチャレンジは、これまで書いてきたように、チクセントミハイの影響を受けて研究開発を社会に位置づけられたものとしてとらえ、それを促進するための方策を、国家的な規模での研究プロジェクトやワークショップと軌を一にして考えていこうとするものである。チクセントミハイの領域、場、個人という三角形モデルは多分当たっているのだろう。山奥の一軒家で、あるいは都会の片隅で、人知れずやっていることがイノベーションになるわけではない。もちろんヘンリー・ダージャー(注)のケースのように、アートや文学を区別して考える必要はあるが、現実にはそれらですら社会における位置づけや歴史における位置づけを無視することはほとんどの場合、困難である。

注:ヘンリー・ダージャー(Henry Darger, 1892-1973)は、アメリカの画家だが、生前は病院の掃除人として働き、絵を描くのはまったくの個人的趣味として行っていて、生前はそれを展覧会などに出すこともなかった。死後、遺品を整理していた人が、どの画家の影響もうけていない独特な彼の作品に目をとめ、以後、高い評価を得るようになった。つまり、生前、彼の社会との接点は掃除人という形であり、画家という形ではなかった。

ただ、シュナイダーマンのまとめた提案は、それでは社会としてどのような支援を具体的に行えば良いか、という点に踏み込んだ点に意義がある。まだまだ抽象的であるとも言えるのだが、HCI分野に限定して、どうすればいいかをもっと具体的に示したのが2016年の論文であり、このコラムの読者の関心にも近いものになるだろう。

公開: 2019年6月5日
著者: 黒須教授