人工物の想定外利用

想定外使用は、設計プロセスで予測できるものかというと、多分けっこう難しいものだと思う。となると、そうした利用法を発見するためにはUX調査、つまりユーザが実際の生活のなかでその人工物を利用し始めてから行う調査が必要だろう。

  • 黒須教授
  • 2015年12月25日

生理用ナプキンの想定外利用

女性用ナプキンを”愛用”する男性たち」という記事があった。実は痔疾の患者にとっては、生理用ナプキンには患部への衝撃を和らげる効果があり、そのために利用している男性がいるそうなのだ。他にも

ナプキンをクッション代わりに使用する例は、激しい任務と車両での移動が多い陸上自衛隊員や、長時間運転のため座りっぱなしのタクシー、長距離トラックの運転手といった職に就く人の間でもよく知られた話だという。他にも大学のカッター(大型ボート)部やボート部の学生の間でも愛用する例は数多い。

のだそうだ。それ以外にも、靴の中敷きとしてその消臭効果を利用しているケースがあるし、アメフトでのヘルメットの中から出る汗を止めるために使っているケースもあるという。

これだけ想定外利用が多い生理用ナプキンについて、メーカーは千載一遇のビジネスチャンス、として飛びついているのかというと、その反応は

そもそもナプキンとは女性をターゲットとして製造、販売している商品で、その技術開発も女性のためにやっている。メーカーとして本来目的以外の使用についてどうこういう立場にはない
(同じ記事より引用)

というつれないものだったそうだ。競合他社も多いことから、つれない返事をしていて、裏では猛ダッシュで新製品開発をしているのかもしれないが、ともかくこのチャンスを逃すことはないだろう。

ティッシュペーパーの想定外利用

開発者が意図していなかった目的で製品が使われている、という事実はUX MILKの記事のように他にも沢山あるようだ。そこに書かれているティッシュペーパー(Kleenex)は、もともとは使い捨てのフェイスタオルとして開発されたものだが、鼻をかむための使い捨てハンカチとして使われていることがわかり、その想定外使用を主目的にした宣伝をして売り上げを増したという。ティッシュペーパーについては僕も調査をしたことがあるが、表のように、実に多様な使い方をされている。フェイスタオルや鼻をかむためどころではない。表を読んでいくと「なるほど、こんな使い方もあるのだ」というような使い方が多い。

こうした想定外使用は、設計プロセスで予測できるものかというと、多分けっこう難しいものだと思う。設計プロセスのなかにユーザとして参加してくれる人々の数は限られているからサンプル数が少ないということもあるだろうし、中長期的に使っているうちに新たな使い方に気がつくということもあるだろうからだ。

想定外利用を知ることは、新製品開発につながる

となると、そうした利用法を発見するためにはUX調査、つまりユーザが実際の生活のなかでその人工物利用し始めてから行う調査が必要だろう。その手法はインタビューによる聞き取りや観察にもとづく洞察を基本にしたものになる。いいかえれば、UX調査をきちんとやらない企業は、みすみす新たなマーケットの発見を放棄している、ということになる。UXという概念を従来的なマーケティングの目的で誤解していると、大きな損失を被るだろう、ということだ。

表 ティッシュペーパーの用途
表 ティッシュペーパーの用途


12月28日変更:黒須先生が調査された、「ティッシュペーパーの用途」の表を追加しました。