コロナ禍での「住まいの価値」の変化と、今後の移住ニーズ
働き方・住まい・移動に関する自主調査(4)
Withコロナの状況下で、人々の働き方・住まい・移動・意識にどのような変化があったのかを探るため、イードは独自で調査を行いました。今回は「住まい」について考察します。
株式会社イードは、Withコロナの状況下で、人々の働き方・住まい・移動がどのように変わり、どのような意識の変化があったのかを探るため、独自で調査を行いました。その結果をご紹介しながら、「今何が起こっていて、今後どうなっていくのか」を数回に分けて考えていきたいと思います(第1回、第2回、第3回)。今回は「住まいに対する価値観の変化」について考えてみたいと思います。
調査概要
- 調査手法
- インターネットアンケート(アンケートパネルに対する調査)
- 実施期間
- 2020年7月3日~7月6日
- 調査対象者
- 20-69歳男女、有職者
- 有効回答数
- 1,234s
- 集計
- 総務省統計局「労働力調査」の「就業者」の性年代構成比に合わせてウェイトバック集計
「都市部から離れても良いから、より広く快適な家に住みたい」というニーズが増加
前回の記事では、コロナ禍において6割が「休日のお出かけ」が減ったと回答したことをご紹介しました。またテレワークの普及により一部では出勤する機会も減っており、平日・休日を問わず、全体的に外出する頻度が減っていることをお伝えしました。その結果「おうち時間」が増え、居住空間の快適性を見直す人が一定数いることが分かりました。アンケートでは以下のようなコメントが寄せられました。
- 家にいる時間が増えたため、今よりも広くて快適な家に住みたいと思うようになった(女性30-34歳)
- 快適な空間が必要だと思うようになった(男性50-54歳)
- 自粛期間を過ごし、もう少し広いマンションへ引っ越したいと思い、物件を毎日見ています(女性25-29歳)
このように「より広く、より快適な住まいに住みたい」というニーズが増していることに加え、テレワークをする人からは「都市部(=職場)へのアクセスを重視しなくなった」というコメントも寄せられました。
- 会社の近くに住んでいるが、数カ月もテレワークが続くと、もっと遠くても安価で広い家に住みたくなった(男性55-59歳)
- 都心に住む必要はないと思うようになった(女性30-34歳)
- 会社の近くに住まなくてもよい(女性45-49歳)
つまり、今までは家選びにおいて「交通の便(職場へのアクセスの良さ)」が重要な要素となっていたものの、コロナ禍を経て「交通の便より居住空間の快適性を重視した家選びをしたい」というニーズが増えていることが分かります。具体的に「郊外や地方に移住したい」と考える人もいるようです。
- リモートワークが標準になったので、どこで仕事をしていても問題なくなったことが非常に嬉しい。 都市部に暮らす必要がなくなったので、地方に移住したい(男性40-44歳)
- のびのびと暮らすためにやはり一軒家がよいと改めて思った(女性45-49歳)
では、一部で囁かれているように「地方移住」の流れは進むのでしょうか。例えば、のどかな地方に移住して広々とした家に住むよう人は増えるのでしょうか。今回のアンケートでは、この点を考える上で留意すべき動向も見えてきました。
生活圏の狭まりにより、居住する「街」への関心が高まっている
以下は、アンケート内でコロナ禍において「近隣との関わりの変化」があったかどうかを聞いた結果です(ここでいう「近隣」とは、「近所」「自分の住む街」を想定しています)。5割強は「特に変わったことはない」と答えていますが、見方を変えると、4割強は何らかの変化があったと回答していることが分かります。具体的には「近隣で全ての用事を済ませたいと思うようになった」「近隣のお店の利用頻度が増えた」などです。
また「近隣へ出かける頻度」についても聞いた結果、2割は「増えた」と回答しました。全体として外出頻度が減っている中、着目すべき動向であると言えそうです。さらに年代別に見ると、特に20代で「増えた」割合が多いことが分かりました。
これらの結果から、今まで出かけた先で行っていたことを自分の住む街でするようになった人が増えたと解釈することもできそうです。具体的には、例えば電車に乗って買い物に出かけていた代わりに近所で用を済ませるようになったり、職場の近くでランチをしていた代わりに近所のお店でテイクアウトをしてみたり、レジャーの選択肢が減った分、近場の飲食店の開拓をしてみたり、などが想定されます。特に20代で「増えた」割合が高いのは、職場の近くや繁華街で過ごす時間が多かった分、生活の変化が大きかったからではないでしょうか。
このように居住地との関わりが増える中で、街の価値を改めて見直した人もいるようです。アンケートでは、以下のようなコメントが寄せられました。
- 自分の地元が一番良いことを再認識した(女性45-49歳)
- 地元だけの滞在でもほぼ問題なく生活できることが分かった(男性30-34歳)
一方、居住地が不便な場合は「不便さを改めて感じ、便利な街に住みたいと思うようになった」と考える人もいました。
- 田舎住まいは不便だと、今までより強く感じた(男性40-44歳)
- 公共機関の利用を控えたいので、徒歩圏内に日常生活に困らないスーパーや薬局などのお店がある家に住みたいと思った(女性25-29歳)
- 普段の買い物に便利な場所に住みたいと思った(女性50-54歳)
いずれにしろ、生活圏が狭まり「居住する街」との関わりが増える中で、「便利な街/魅力ある街に住みたい(住み続けたい)」というニーズが高まった結果であると考えることができそうです。具体的に「徒歩圏」と言及する人がいるように、いわゆる「コンパクトシティ」の価値が見直されているとも言えるかもしれません。
なおアンケートでは、「歩ける範囲に生活に必要な施設や店舗がある場所に住みたい(住み続けたい)」かどうかも聞きました。結果、4割弱が「そう思うようになった」と回答しています。
これらの結果を見ると、移住を考える際「周りに何もない場所でもいい」と考える人は多くはなく(元から田舎志向がある人は別として)、「街」として魅力があり、便利な場所が選ばれていく可能性が高いと考えられます。
テレワーカーも出勤する
さらに「移住」について考える上でもう1点、留意する点があります。先に、テレワークの普及により「毎日職場に通う必要がなくなったので、もっと都市部から離れた場所に住んでも良い」と考える人がいることをご紹介しました。しかし、「毎日職場に通わなくて良い」ことは、必ずしも「職場に通わなくて良い」ことを意味しないようです。イードが実施した「テレワークに関する調査」では、テレワークをする人でも「週に5日テレワークをしている」人は少数であり、またテレワークをする人の希望としても「常にテレワークをしたい」と考える人より、「たまにテレワークをしたい」と考える人の方が多いことが分かっています。
つまり全く出勤しないで働くケースよりも、「たまに出勤する」「週に1~数日は出勤する」ケースの方が(おそらく今後も)多いであろうことが分かります。よって、居住地選びにおいても職場から遠く離れた場所ではなく、例えば「週に1日くらいは職場に通える場所」のような、ある程度のアクセスの良さが確保された場所が選ばれる可能性が高いと言えそうです。具体的には、いわゆる「郊外」と呼ばれている場所に目を向ける人が増えていく可能性があります(都市部より低い価格でより広い・快適な家に住めることが前提となります)。
まとめ
- 「おうち時間」の増加により、「より広く、快適な家に住みたい」というニーズが高まっている
- テレワークの普及により、家選びにおいて都市部(職場)へのアクセスの重要度が下がっており、多少遠くても良いと考える人が増えている
- 生活圏の狭まりにより居住する「街」への関心は高まっており、「便利で魅力ある街に住みたい」というニーズが高まっている
- テレワークをする人でもたまに~週に数日出勤するケースが多く、ある程度職場までのアクセスの良さが確保できる場所が選ばれる可能性が高い
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弊社プレスリリース:イード、『With/Afterコロナにおける働き方・住まい・移動・個人情報に関する調査』を発表