面接調査におけるインフォーマントとインタビューアの関係性
インフォーマントに影響を与える要因として、インタビューアの年齢、性別、容貌、服装、表情、視線の使い方、口の利き方、態度、臭いなどが考えられる。いずれの要因もポジティブな方向にもっていく努力が必要だ。インタビューアは、自分がインフォーマントにどう映っているかを常に意識しなければならない。
面接調査をやりたくなったけど…
「デザイナーとしての自分の将来のあり方や予想される危機、そしてそれにどのように立ち向かおうとしているかを、これまでの自分の生き方や現在の生き方・考え方との関係で調べてゆく」といった焦点課題で調査をしたくなった。特に急速に進化しつつあるAIとの関係で、人間固有の創造性をベースにしていると考えられている職種、そこにデザイナーは含まれるわけだが、そこにおいて、将来への危機感やそれにどう対処しようとしているかという意識のあり様を知りたくなったのだ。
そこで、インタビュー調査の概要を考えはじめた。どういう年齢や経歴のデザイナーをインフォーマントにするか、どうやってインフォーマントにアプローチするか、等々である。しかし、そこでハタと考えた。僕がインタビューアとして調査をするとしたら、その場で、インフォーマントの人たちはインタビューアとしての僕についてどのようなことを考え、感じるだろうか、と。
そこで重要になるポイントは、インタビューアが高齢者である、ということだろう。そこに威圧感を感じてしまうインフォーマントもいるだろうし、どういう話なら通じるのだろうかと距離感を感じてしまうインフォーマントもでてくることだろう。つまり、インタビューの場における社会的関係構築の問題のために、ラポールの形成が容易ではなくなり、結果的にインタビュー調査が失敗してしまうのではないか、ということである。
インタビュー調査における社会的関係性-年齢の場合
HCDにおけるインタビュー調査については、何冊もの解説書が刊行されている。しかし、そのほとんどは、インタビュー場面の設定の仕方とか、インタビュー場面での応対の仕方などの原則やノウハウを語っているが、それは基本的にインタビューア目線である。インフォーマントから見て、インタビューア、つまり自分がどのように見えるのか、どのように見えるようにすべきか、という点についてはほぼ語られていない。
つまり、インタビューの場に展開されたセッティングのなかで焦点課題をあきらかにしてゆこうという姿勢が重視される結果、課題究明的な方向性に重点がおかれることになっているからなのではないかと考えた。言い換えれば、インフォーマントとインタビューアの関係性について、双方向的に俯瞰するメタな姿勢よりは、インタビューアの視点から一方向的に見ていこうとするスタンスが暗黙のうちに前提とされているように思われる。
こうなっている理由は、HCDのインタビュー調査の大半が20代から30代、せいぜい40代のインタビューアによって実施されている、という実態も関係しているだろう。こうした比較的若いインタビューアにとって、インタビュー調査は、それこそ弟子入りであり、学びの場である。だから自分がインフォーマントからどう見られるだろうかといったことを考えるよりも前に、インフォーマントからどのようなことが「学べる」のか、ということが主たる課題となり、その結果、解説書としてはそのためのメソッドやアプローチの仕方を語っておくことが中心になっているのではないかと思われる。
ちなみにインタビューアがインフォーマントと同世代の場合には、インフォーマントにとって身近な世代であるため、時にため口を交えたりしながら、比較的容易に自然な状況設定ができ、ラポールも形成しやすいと考えられる。これはインタビューアとインフォーマント双方が若い場合だけでなく、中高年である場合にも同様だろう。逆に、インタビューアとインフォーマントの間に世代差がある場合には、前述したように、インタビューアの方が若年であればインタビュー調査が「学びの場」となる一方、反対の場合には、インフォーマントに威圧感や距離感を与えてしまう可能性があるように思う。
では、どうしたらいいのか。インタビューアが若年である場合、というか特にインフォーマントと同年配である場合には、ラポールがとりやすいのは良いことだが、なれ合いのような形になってしまってはいけないだろう。しっかり自分の立場と役割を意識し、インフォーマントの話に注意を払うことが大切だ。リサーチクエスチョンについて聞き漏らしがないかに注意を払うこと、ツッコミが浅いところはないか、発話内容に不分明なところや相互に矛盾するような内容がないかに気をくばること、などだ。
反対に、インタビューアが高年齢である場合、特にインフォーマントが若年者である場合はちょっと難しい。特に明らかに高齢者とわかる場合には、なんでこの人がインタビューするんだろうと思わせたり、なんか話しづらいなとか感じさせないように、経験値からくる努力でカバーしようとするしかないだろう。また、若者言葉を使ったり、流行の話題に振ったりしてしまうと、無理してこちらに合わせようとしてるな、と感じさせしまうので注意が必要だ。高年齢であることは隠しようがないことなので、年齢差があることは致し方ないと考え、関係の良好な親子をロールモデルとするのもやり方の一つだろう。
インタビューアが影響を与える要因
インタビューアがインフォーマントに影響を与える要因としては、インタビューアの年齢の他にも、性別、容貌、服装、表情、視線の使い方、口の利き方(声質や言葉使いも含めて)、態度、臭い(体臭や香水)などが考えられる。このいずれの要因についてもポジティブな方向にもっていけるよう努力することは必要だが、年齢や性別、そして容貌などの生物学的要因は、他の行動的要因などと比較して変更や修正が困難であり、とはいうものの社会的な場としてのインタビュー場面に影響する要因であるために、インタビューアは、自分がインフォーマントにどのように映っているかを常に意識するようにしなければならない。少なくともインタビュー調査に阻害的なものになってはいけないので、親子や友人といった円滑な人間関係をロールモデルとして、それに近づけ、適切なラポールを形成してゆこうとする努力が必要となる。