今こそCSCW 2.0の研究開発を
現在はリモートワークに関する膨大な情報が集まっている時期である。そうした時期であればこそ、デザイナーやエンジニア諸氏は、大々的にユーザ調査を実施すべきである。そうした調査を行うことがまさにCSCWのCWの部分なのだ。
次には実態に即したCSCW研究を
前回と前々回にグループウェアやCSCW (Computer Supported Cooperative Work)について書いたので、概略はご存知の方が多いと思うが、結局のところ初期のCSCWの研究は技術者の思い込みをベースにした新技術の開発だったため、社会的には普及することなく失敗に終わってしまった。ようするに、CWつまり共同作業(Cooperative Work)に関する社会科学的な研究、このU-Siteの文脈でいえば、ユーザ調査をきちんとすることなしにCSつまり技術開発(Computer Support)だけが突っ走ってしまった、というわけである。
その時も書いたが、現在、我々はインターネットとパソコンとマイクとスピーカとカメラとディスプレイという基本構成で、ZoomとかSkypeといったソフトウェアを使いながらリモートワークを行っている。要するに、あまり技術的にゴテゴテした装置は必要ないことがわかったし、興味深くても実用性のないものは淘汰されてしまったのだ。試行錯誤の後にシンプルな仕組みが一般化したこの模索の時代を、CSCW 1.0の時代と呼ぶことにしよう。ということは、CSCW 2.0の時代がやってくる、ということをここでは言いたいのだ。
実践データのあふれる現状
現在、COVID-19 (新型コロナウイルス感染症)が蔓延したことにより、政府によって在宅勤務やリモートワークが推奨されている。すでにオンラインミーティングを経験したことのある人は、ある程度の数存在していたと思われるが、日本全体、いや世界全体がオンラインの方向へのシフトを迫られているというのは稀有な状況である。本格的なオンライン業務の経験が乏しい人たちが多かったため、たとえば以下のような組織が、どのようにしてリモートワーク(テレワーク)を導入したらいいかのアドバイスを行っている。
- テレワーク相談センター
- テレワーク相談コーナー(東京テレワーク推進センターが設置)
しかし、それでも様々な理由からリモートワークが困難で仕事場に通勤している人たちはいるし、リモートワークを導入しても円滑に業務遂行できずに困っている人たちもいる。たとえば、
- 個人情報や機密情報を扱うため、仕事場でなければデータ処理ができないオフィスワーカー
- 大型ディスプレイで大きな図面を扱うため、その家庭への運搬や設置が困難な状況にある設計者
- 窓口にやってくる人たちを相手にしなければならない銀行、役所、保健所などの関係者
- 電子署名を取り入れたが、取引先が導入していないため書類に押印をしなければならない企業の法務担当者
- 三次元のモックアップを使うため、映像では仕事ができない工業デザイナー
- 生鮮食料品や調理品を扱うため、接客が必須となる小売店、レストラン関係者
- 特殊工作機械を使うため、機械の所在場所を離れられない製造業関係者
- 紙という物体を扱うため、遠隔地での作業は困難な印刷や出版の関係者
- 製造ラインのメンテナンスのため、そこから離れてしまうことができない製造業関係者、等々
現在は、こうした人々の仕事について、仕事の具体的内容、遠隔にするのが困難な理由を調査し、改善のあり方を考えることが必要な時期である。
もちろん、現在のような非常事態を除けば、何が何でも遠隔での作業にしてしまう必要はない。平常時においては、遠隔にすることでデメリットよりもメリットの多い業務を対象として考えれば良い。またデメリットをなくすために、どのような対応が可能かを考えることも必要だろう。
ともかく、現在はリモートワークに関する膨大な情報が集まっている時期であり、リモートワークへの適否、その改善方法などを考えるには絶好の機会といえる。
積極的に調査を行おう
そうした時期であればこそ、デザイナーやエンジニア諸氏は、UX関係者に協力を仰ぎ、大々的にユーザ調査を実施すべきである。上記のセンターには、リモートワークのUXに関する情報が多数蓄積されているはずである。センターの関係者だけでなく、そこに相談を持ち込む企業関係者からも有用な情報は多数得られるだろう。さらに、リモートなんて無理だと最初から諦めている人たちもいるだろうから、そうした人々を発掘して情報を得るようにすることも有意義だろう。
そうした調査を行うことがまさにCSCWのCWの部分なのだ。エンジニアが頭の中で想像した問題ではなく、現実の世界における問題を把握することがCWなのだ。そして、そのCWにもとづいてCSを考えるなら、生態学的妥当性の高いリモートワーク用システムを構築していくことができるだろう。これがCSCW 2.0ということである。CSCW 1.0の失敗を肝に命じて、ぜひ現場のニーズや利用状況に適合したシステムの研究開発を進めていただきたい。