Alertbox:
この5年間を振り返って
最初のAlertboxの日付は1995年6月、実際には1995年5月25日に発表されている (締め切り前に発表できた数少ない回のひとつだ :-)
1995年に私は7つのAlertboxを発表し、3万ページビューを獲得した。1コラムあたり4300にしかならない。かなり失望した。ほとんどあきらめそうになった。2000年も半ばにさしかかった今、Alertboxは1コラムあたり約21万ページビューを獲得している。
つまり、この5年間の読者増加率は4800%ということになる。
一方で、Alertbox開始当初、ウェブサイトの総数は3万5000ほどであったが、今では1600万サイトに増えている(増加率は45600%だ)。言い換えると、ユーザビリティに関するメッセージを伝える私のコラムがウェブ全体に占める割合は減少したということになる。
単体でもっとも人気のあるコラムは1996年の『ウェブサイトの間違いトップ10』だ。現在、月間4万ページビューを獲得し、オンラインで公開されて以来、この4年間の累計閲覧回数は100万回に迫ろうとしている。これですら、負け戦かもしれない。単純計算で各サイトあたりデザイナーひとり、1ページビューあたり読者ひとりとしても、1500万のウェブサイトは、これら10カ条の原則を知らないままデザインされたということになるからだ。
このトラフィックの増加をみれば、あえて強い立場を取り、一人称で語ったコラムを発表したことは、基本的に価値のあることだったことがわかる。始めのうちぱっとしなくても、粘り強く続けることだ。コラムにリンクするサイトが増えれば増えるほど(現在、私のサイトは、外部から約2万件のリンクを得ている)、ウェブでの成長は雪だるま式になる。もちろん、これらのリンクや、それに伴った成長を失わないためには、URLを永久的なものにしておくことが重要だ(ほとんどの人は、何も知らずに古いコラムのリンク切れを起こしてしまう)。
Alertboxの勝利
Alertbox最大の勝利のひとつは、5年間に渡って書き続けた105篇のコラムのほとんどが、今なおその価値を失っていないということである。例えば、1995年のコラムで提唱したウェブベースのマルチメディアについてのガイドラインは、今でも有効だ。インターネット関係のライターで、私と同じことが言える人間はめったにいない。大企業だってそうだ。わざわざ5年前のレポートを公開して、当時の予測とアドバイスが今でも有効かどうか、見込み客にチェックしてもらえるようにしているところはない。
古いAlertboxのアドバイスが色あせないのは、それが、細かな技術論や、最新トレードショーでの流行語ではなく、人間の特性にもとづいた有益なアドバイスを提供しているからだ。人間はそう簡単には変わらない。実際、インターネット戦略で利益を上げようというのなら、Harvard Business School Pressの最新号を読むより、5人の顧客を対象にしてユーザビリティテストをやった方がたぶんいいはずだ。
Alertboxが基本としている原則はこうだ。ウェブ上での成功は、派手なデザインよりもシンプルなデザインによってもたらされる。また、内部で想定したユーザー像を押し付けるのではなく、彼らがやりたいことをやりやすいようにしてやることが重要だ。
シンプルさが勝利した。大型サイトを立ち上げる際に、派手なデザインを採用することはめったになくなった。失敗につながることがわかっているからである(ごくわずかな例外のひとつが今月倒産したBooである。まるでAlertboxへの誕生日プレゼントみたいだ)。間違いトップ10を3年後に振り返った私の分析では、これらの古典的な間違いは、最近ではかなり減っているということを示した。さらにいうと、最大のサイトというのは、一番ユーザビリティ上の間違いが少ないサイトでもある(だから大きくなれたのだ)。
その他の正しい預言として、以下のようなものがある。
- 1997年:ウェブ上では広告はうまくいかない(広告だけをサイトの収入源にしていたら、今ごろ、深刻な資金難に陥っているはずだ)
- 1998年:評価管理(Google、Epinions、eBay、SlashDot、その他、今やこのアイデアを取り入れているところは数多い)
- 1999年:インターネット関連株の評価額はユーザー行動を反映すべきだ(当時10億ドルの評価がついたMarketWatch.comをコラムで取り上げ、それだけの値打ちはないと書いた。今週の同社の評価総額は2億9600万ドルである)
Alertboxの敗北
予測のほとんどが現実になり、大方のアドバイスは、インターネットで成功するための基礎としての価値を認められたとはいえ、当然ながら完璧ということはない。
もっとも顕著なのは、ウェブ上の主要なビジネスモデルのひとつとして、私が、ことあるごとに、マイクロペイメント(小額決済)の出現を予測したことだ。あいからわず待ち続けている。1998年以来、私は何度も繰り返し予測している。マイクロペイメントは、2年以内に出現するだろう(当然、今を基準にすれば、これは2000年ではなく2002年ということになる)、と。ハイクオリティなウェブコンテンツを確保するためには、ユーザーがお金を払って、顧客になってもらうしかないと今でも信じている。ウェブ上では何でも無料というのは一時的な局面で、まさに今、私たちは過渡期に差し掛かっている。そのうちに、クオリティの低さと、ますます出しゃばってきた広告に嫌気が差して、人々は料金を支払うようになるだろう。
1995年8月、私は5世代のオンラインサービスについて概観した。Mosaicは3世代目にあたる。AT&T InterchangeやMSN、Javaを例にとって、私は第4世代の登場を予測した。だが実際にはそうはならなかった。AT&T Interchangeはインターネットをうまく統合できなかったために消え去り、MSNはやみくもにインターネットをテレビのようにしようとして失敗し、撤退した。ユーザーは、もうウェブブラウザで苦労するのにうんざりしている。現在のところ、「第4世代」を飛び越して、一気に第5世代のインターネットインターフェイスに突入する可能性が出てきている。
ウェブコンテンツの質がひどいというのも、Alertboxの大きな敗北のひとつだ。私は、ウェブに適した新しい文章作法をくりかえし提唱してきた。1997年のAlertboxで、ユーザビリティを倍増するための執筆ガイドラインを示したにも関わらず、実質、ほとんどすべてのサイトが、いまだに旧来メディアの文章スタイルに頼っている。
- リニア(直線的)な構造=リンクつきの逆ピラミッド型の構造になっていない
- うんざりするような文字ブロック症候群
あまり注目されていないコラム
重要なのに、あまりトラフィックを集めていないコラムもある。
- インターネットデスクトップ(1996年3月)
- TVとウェブが出会うとき(1997年2月)
- ウェブサイトはリピーターを増やしているか?(1997年4月)
- データ品質がウェブユーザーエクスペリエンスに与える影響(1998年7月)
- 逆Metcalfeの法則(1999年7月)
2000年5月28日