デザインフローにおいてAI化される部分
シリーズ「AIによって変わるデザインの行方」
前回の「ユーザ調査からリリースまでの流れ」で、デザインフローの概略を定義した。今回は、そのなかでどの部分がコンピュータ化されAI化されうるのか、また既にそうなっているのかについて書いてみたい。
デザインフローのAI化
「ユーザ調査からリリースまでの流れ」という原稿で、デザインフローの概略について書いたが、今回は、そのフローのなかでどの部分がコンピュータ化されAI化されうるのか、また既にそうなっているのかについて書いてみたい。
AI化に関しては、toitta (HCD-Net主催のワークショップにて情報入手)、Centou (茂木さんとWebからカミナシの事例について情報入手)、楽天AIチャットインタビュー (IIDの担当者さん経由で情報入手)の情報を参考にした。なお、プログラミング関係については、筆者は35年以上前にやっていたことで、最近の状況を知らないため、ネット検索した情報にもとづいている。
参考URL
コンピュータ化される部分とAI化される部分
図の色分けによって示しているが、現状は薄いブルーで示すように全体的にまだ支援が弱めといえる。弱め、というのは、MiroやFigjamあるいはFigmaなどのコンピュータツールを利用するけれども主体は人間サイドにあるものか、AIチャットインタビューなどのようにAIを利用しているけれどもまだ完全に信頼できるほどの水準には達していないものがある、という意味である。薄いブルーで示したものは、AI利用についていえば人間による確認が必要なものである。濃いブルーで示したものは、ほぼそのままAIによる処理結果を信用していい程度にはなっているもので、これは今のところ動画や音声からのテキストの書き起こしだけと言っていいのではないだろうか。ただし、書き起こしについては、どのようなAIツールを使っても、固有名詞の誤り、同音異義語の誤りなどが散見されるので100%信用できるとはいえない。
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流れに沿ってみてゆくと
図の左端の「企画会議」の段階は、あくまでも人間が実施するものだろうが、リモートでの実施にZoomやFigJamなどを利用したり、マーケット調査の結果をChatGPTやdeepseekなどの手を借りて分析したり、ということはありうるだろう。
「焦点課題の決定」については、人間が判断して候補から選択することになるだろう。
次の「RQの作成」の段階だが、AIチャットインタビューでは、詳細は明かされていないものの、これに近いことをやっているようではある。ただ、RQはインタビュー調査の成否にかかわるものなので、ここを(少なくとも現状の)AIに任せてしまえるのかどうかについては疑問が残る。
次の「インタビュー実施」について、AIチャットインタビューでは、チャット時間が最大10分となっているが、音声対話ではなく、スマートフォンでのテキスト対話であるため、全体の情報量はかなり限られたものになるだろう。質問の深堀りもやっているようだが、全体時間が限られているので、どの程度の実用性があるかは不明である。ただし、コンピュータでインタビューが実施できれば、並行して何十人、何百人でもデータを取れるので、短期間で多くのサンプルを得ることは可能だろう。
次の「動画・音声書き起こし」の部分は、現状でもほぼAIの独壇場になっているといえるだろう。多数のツールが登場しており、認識精度については、前述したように、固有名詞の間違いや同音異義語の誤り、単純な聞き取りミスなどがあるし、意味が通るようにAIが発話内容を修正してしまうこともあるので、100%信用できるという水準にはなっていないが、これは今後のチューニングによって比較的早く改善されることになるだろう。以前は書き起こし業者というものが頼りにされていたが、おそらく徐々にコンピュータによって置き換えられてしまう職域ということになるだろう。
特にtoittaは、書き起こしをした後で「切片化」を行う点に特徴がある。現在は、KA法と連携して利用する形になっている。羽山祥樹氏はこのtoittaの切片化の能力を高く評価している。「意味の価値化」の作業は人間の手にゆだねられており、苦労する作業ではあるが、相当知恵を絞る部分でもあるので、AIには難しいのではなかろうか。
切片の「グルーピング(KJ,KA等)」については、toittaには「切片グルーピング機能」というものがあり、Miro上である程度はAIによって実施されるようだが、グループを構造化する段階については人間によるリンク付け作業が重要になっている。他方、Centouではインサイトという形で集合図のようにしてグルーピングした結果が得られる。ただし、切片化やグルーピングについては、参考にはなるが、それが最終形ではないだろう、というのが筆者の印象である。
「概念化(文章化)」について、AIチャットインタビューでは、「回答者ごとのインタビューサマリをAIが自動で作成」と書かれているのだが、筆者は確認できていない。
「ペルソナ」や「ユーザフロー検討(含CJM)」の部分については、Centouは簡易的ながらそれをやってくれているようだ。
「アイデア生成」から「サービス機能検討」に至る段階は、ChatGPTやdeepseekなどの出力を参考にすることはあるかもしれないが、少なくとも現状では人間サイドの業務になっていると思われる。
デザインチーム(上側)に行くと、アーキテクチャ設計やUI設計は、ある程度コンピュータに任せることができるばあいもあるらしい。ただし「審美性評価」はあくまでも人間の認知や感性が必要になるので、ここはコンピュータ化されることはないだろう。次の「グラフィック設計」は、茂木さんの話では、リクエストの技術(ただし指示の出し方が上手くないと期待通りのアウトプット出てこない)次第でAI化がされうるようになっているそうだ。最後の「検証(含ユーザビリティ)」についてはAIが利用される可能性は高いように思えるが、まだそうしたツールはでてきていないようだ。たとえばエキスパートレビューのような方法であれば、そもそもルール化されたものがあるし、チェックリストによる評価であれば、何とかなりそうな気がするのだが、さて、どんなものだろう。
他方、ソフトウェアチームの側(下側)にゆくと、まず「技術検証」があるが、これは現在の技術水準を理解し、C/P比を考慮して行われることなので、アルゴリズム化することは不可能ではないように思う。次の「システム設計」から「プログラミング」「検証(デバッグ)」のあたりについては、ちょっと古い記事だが、AIデバッグの最前線:最新技術とツールの紹介 | Reinforz Insight あたりを読むと、かなりの程度進んでいるように思われる。
おわりに
こうして見てくると、図に示したように、かなりの部分、コンピュータやAIが活用される余地はあるように思う。現在はまだ完璧な水準ではないにしろ、関係者の努力の積み重ねにより比較的短い期間で、もう少しの前進がみられるにちがいない。ただ、筆者には、完全にコンピュータやAIによって置換されてしまう未来は見えてこない。やはりそれはツールであり、高水準とはいえ人間が使う道具なのではないか、という気がする。そんなことを考えていると、これから数年先の近未来が楽しみである。