ローソンのPB商品のデザインはユーザビリティの問題

ローソンのPB商品のパッケージデザインの評判がよろしくない。どのような商品か分からないのだ。文字や写真などをグラフィックという観点からしか考えないグラフィックデザイナーには反省をしてもらいたい。また、反省をうながすべき立場や関係にいる人が、そういう点に着目して注意していない可能性もある。

  • 黒須教授
  • 2020年12月1日

ローソンのPB商品のデザイン

2020年の春にローソンが出したPB商品のデザインの評判がよろしくない。PB商品は、セブンイレブンでも、ファミリーマートでも出しており、自社ブランド商品としてそれなりの特徴づけをしている。特に、その特徴づけはパッケージのデザインに表れており、統一感のあるデザインがなされている。

ただ、ローソンのPB商品の場合、一般の商品とPB商品の差別化を極端に推進しようとしたためか、写真1のように、商品棚のなかで、PB商品群は他の商品とはちがうのだということが容易にわかるものの、具体的にどのような商品かが分からないということで、ネガティブな評価を得てしまっている。写真では、他社製品である「サクッとポテト」や「チョコ棒」や「ブロックチョコ」、「O’ZACK」、「ドンタコス」などが大きなロゴと大きな写真で、具体的な内容を分かりやすく表示しているのに対し、ローソンのPB商品のロゴは小さくて貧弱、写真も近寄って見なければならないほどの大きさで、一体、売る気があるのか、と思えてしまうほどだ。

図
写真1

筆者はこのPB商品について幾つかの商品を購入してみたが、「この際、サンプルとしてひとまとめに買ってしまえ」という意識があったため、表示をよく見ることなく買ってしまった。その結果、購入した商品の一部が写真2に示すようなものである。よく見ると、左側は「親子丼の素」で右側は「中華丼の素」である。写真として皿にもりつけた円形のものが掲載されているが、なんかグチャグチャ乗っかっているということは分かるものの、あまりに小さすぎて何かが分からない。皿の周囲には、その料理に使ってある具材が表示してあるようだけど、これは更に小さな写真なので、点々のようにしかみえない。

図
写真2

ローソンPB商品のデザイン

このことは、ネットでも記事になっていて、Wezzyの「ローソンPB新パッケージの『わかりにくすぎる』という問題 ユニバーサルデザインの専門家に訊く」という記事によると、nendoというデザインオフィスが手がけたものだという。

そこで同社のサイトを訪れて2020年にリリースした作品群を見てみると、如何にも如何にも「デザインの仕事をしました」、「デザイン心が溢れているでしょう」、「センスいいでしょう」といいたそうな作品が勢揃いしている。なんか、美大の学祭展示を見ているような気がしてくる。

ついでにrecruitment、つまり採用情報を見てみると、Product design、Graphic design、Spatial design、Moving image design, Internsという職種が書かれていて、それぞれの項目にはRequired software skillsとして、どのようなデザインツール(ソフトウェア)を使えることが必要か書かれているのだが、usabilityという項目はどこにも見つからない。これじゃあ、イラストレータとかのツールを使いこなせればユーザビリティのユの字を知らなくても採用されちゃうんだろうな、と思われる。当然、HCD-Net人間中心設計資格認定制度の資格についても書かれてはいない。

いや、nendoを貶めることが本項の目的ではない。ただ、こうしたデザインオフィスがいまだに大手を振って作品を作り出しており、またローソンともあろうものが、そういう会社に発注をかけてしまうような状況があることが分かったということだ。つまり、nendoへの発注元であるローソンという会社においても、ユーザビリティマインドは育っていなかったということだ。

ユーザビリティ視点からの評価

nendoという会社がデザイン業界で大手なのかどうかは知らないが、それにしても関係者が『あれだけ』ユーザビリティ活動(まあ、今ではUX活動と名前を変えているけれど)を頑張ってきたのに、そして関連企業の関係者の間には結構浸透してきたかなと思っていたのに、その予想と期待は裏切られてしまった。その悔しさは何ともいえず、大きい。

ともかく、まずはユーザビリティ工学の観点からのインスペクション評価を行うことにしよう。その視点とするのは、筆者の品質特性図にあるユーザビリティの副品質特性である。その内容については『UX原論』などを参照していただきたい。

a. 認知しやすさ

陳列棚で目立つかどうかは発見しやすさなので、ここでは置くとして、パッケージから内容がわかりやすいかどうかという点についていうなら、この点は問題である。

内容を知る手がかりは唯一「親子丼の素」とか「中華丼の素」というラベルであり、さらにこの両者に限っていえば「親子」か「中華」という二文字ずつだけが内容を知る手がかりになっている。写真やその他のイラストは、あまりに小さいため両者の内容を知るための手がかりとして役に立っていない。パッケージ全体の面積に比して、「親子」や「中華」という二文字の占める面積はあまりに小さい。要するに識別性が低いのだ。いや、単独で考えるなら同定性が低いともいえる。

これを改善するには、ラベルのフォントをもっと大きく明瞭なものにすることと同時に、写真やイラストを同定性の高いものにすることが必要だ。そんなことは言わずもがななのだが、どうもそのあたりがデザイナーに理解されていないようだ。

b. 記憶しやすさ

たとえば美味しかったからまた買おうというような場合、パッケージが同定しやすく、他の製品から識別しやすいならば手がかりがあることになるが、そもそも同定性も識別性も低いから、他と区別して記憶するということが困難である。

c. 学習しやすさ

これは、今回の事例には関係しないだろう。

d. 発見しやすさ

陳列棚のなかから特定の商品を発見することは、いわゆる図と地の法則に関係する。ようするに、目標としている商品(図)が、それ以外の商品(地)から浮き上がっているように見えるかどうかということである。これは誘目性にも関係するので、視線が自然にそこに誘導されるかどうかということでもある。

このPB商品は、いろいろな種類が並んでいるときには、類似したデザインの商品がかたまって配置されているために、群として誘目性があり、図にはなりうる。しかし、そのなかの特定の品物を選ぼうとするときは、認知しやすさについて述べたような理由から特定の商品が認知しにくい。

記憶しやすさとも関係するが、このPB商品のなかの特定のものが美味しかったのでまた買おう、というような場合には、群としては認知しやすいから、ああ、この一群のなかにあるんだな、ということはわかっても、それからの発見にいささか苦労をすることになる。そうした理由から、発見しやすさに関してもいまひとつ、というところである。

e. 操作しやすさ

ここではパッケージの外観について評価しているので、操作性は関係しない。

f. エラー防止

認知しやすさや発見しやすさの項で言及したように、内容物がわかりにくいことがこのデザインの最大の問題である。当然、それによるエラー、誤った購入までは至らないまでも、店頭で他の品物を手にしてしまうということは起こりうる。

これは障害者や高齢者だけの問題ではない

この問題については2020年6月頃に問題提起がなされ、ネット上でちょっとした騒ぎになった。その際、たとえば上に挙げたWezzyの記事のようにユニバーサルデザインやアクセシビリティから論じられることが多かったが、この問題は高齢者や障害者に特有のものではなく、すべてのユーザ(消費者)に関係するものである。そのあたり、多様なユーザに対するユーザビリティの問題だという意味でユニバーサルデザインの問題だと指摘するのは理にかなっているが、基本的にはユーザビリティの問題であるという認識がもっと広まるようになって欲しいと思う。ユーザビリティ工学はレガシーではなく、未だに重要なスタンスだからだ。

デザイナーのあり方

グラフィックデザイナーは、文字や写真という表示要素をグラフィックという観点からしか考えようとしない傾向があるように思う。文字列は書かれている内容には関係なしに、それを矩形にまとめるか、写真に沿わせるか、直線的に伸ばすか塊として提示するか、しか考えようとしない人がいる。写真だって、どのような写真かではなく、紙面全体からのバランスとか、配置の面白さというような観点で考えてしまう。要するに情報の内容に関わっていないデザインであり、情報のデザインをしているという自覚がないのだ。

この点は大いに反省をしてもらいたいが、反省をうながすべき立場や関係にいる人が、そもそもそういう点に着目して注意するということをしていない可能性がある。つまり、自分たちのやってきた流儀は、これまでもそれで通ってきたし、これからもそれでいいのだろうと考えているのだろう。だから、デザイナーの罪というよりは、クライアントがデザイナーを導く努力を怠っている、といってもいい。

ともかくデザインに関わる人々のユーザビリティに対する意識が向上することを強く望みたい。この時代になって、そういうことを言わねばならないのは悲しいことだが、現実は「そういうこと」なのだ。