「ユーザーを中心に考えよう、という空気が社内にある」
ヤフーの人間中心設計

HCD-Net認定人間中心設計専門家の声: ヤフー株式会社の皆さん

HCD-Netで毎年恒例の、認定人間中心設計専門家へのインタビュー。今回は、ヤフーでHCDへの取り組みを進めていらっしゃる方々にお答えいただきました。

※HCD-Net認定 人間中心設計専門家・スペシャリスト 受験者募集記事

左から: 木村さん、藤原さん、竹中さん、間宮さん、柴崎さん、小川さん、中川さん

人間中心設計(HCD)への取り組みは、近年、ウェブ業界でも盛んになりつつあります。

なかでも、ヤフー株式会社は、人間中心設計への取り組みが進んでいる会社のひとつです。

現場で活躍する専門家、全社をまたいで人間中心設計を推進する部門、ユーザー調査を手軽にするためのしくみなど、さまざまな取り組みがされています。

ヤフー株式会社の、HCD-Net認定人間中心設計専門家、人間中心設計スペシャリストの方をはじめ、7名の方にお集まりいただき、具体的な人間中心設計への取り組みを伺いました。

【話し手】
ヤフー株式会社

  • 竹中民男さん(メディアサービスカンパニー、HCD-Net認定 人間中心設計専門家)
  • 藤原亮さん(パーソナルサービスカンパニー、黒帯* アプリUI、HCD-Net認定 人間中心設計専門家)
  • 木村英里子さん(メディアサービスカンパニー、HCD-Net認定 人間中心設計スペシャリスト)
  • 間宮高広さん(システム統括本部、HCD-Net認定 人間中心設計スペシャリスト)
  • 柴崎弘史さん(システム統括本部)
  • 小川健太郎さん(システム統括本部)
  • 中川雅史さん(メディアサービスカンパニー)

* 黒帯とは、ヤフーの制度として認定された専門性に優れたエキスパートのこと。

ユーザーを知ることが、プロジェクトの推進力になる

――御社では、さまざまな人間中心設計への取り組みをされています。まず、現場での、人間中心設計への取り組みをお伺いできますでしょうか。

藤原:
そうですね。私の最近の事例として、ポイントのアプリを担当しました。実店舗のレジで使うアプリです。

プロジェクトが始まったばかりのとき、ステークホルダーが多く、いろいろな意見が出ていましたが仮説に過ぎず、ゴールの共有や意思決定が曖昧でした。

そこで実際の店舗でフィールドテストを実施しました。プロジェクトメンバーや関係者にも見学者として参加してもらい、アプリのプロトタイプを店員の方に使ってもらいました。

店員の方が使うところを見たら、全員が「ああ、なるほどね」となりました。実際のユーザーが「これがいい」と言うのが、いちばん説得力があります。

また、店長は「使いやすい」とおっしゃっていましたが、撮影動画で検証すると操作に迷っている点などが見つかりました。

ほかにも、レジで会計をするお客さんは、ポイントよりもエレベーターが来たらすぐに乗りたい、というようなことも、立地条件や時間によってニーズが変化するということもインタビューでわかりました。

こういう情報は、ユーザーのところに行かないとわかりません。

まずは、プロジェクトメンバーに、ユーザーのところに行って、観察や実際に使ったフィードバックをもらうなどして、立場によって目的の違う意見が出るところを、ユーザーを中心にして議論する、というゴールの共有が大切です。

――なるほど、まずはユーザーに触れることが大切ですね。

木村:
まさに目の前でユーザーが困っている、というのは、説得力があります。私もそう思っています。

私のかかわったサービスでは、人間中心設計の経験のない開発者に、ユーザビリティテストのモデレーターをしてもらいました。

開発するメンバーが、実際のユーザーと対面することで、肌で「ここはよくない」と感じることができます。

そのサービスでは、ユーザビリティテストをしたところ、問題点が100個ほど見つかりました。それを、開発メンバーは、ものすごい熱意をもって、短期間ですべてを修正し、リリースに間に合わせました。

その原動力は、開発者自身が、ユーザーの困っているのを目の前で見たことです。ユーザーを肌で感じることが、プロジェクトの推進力になります。

現場の人たちが、主体的に動ける空気をつくる

――現場で、そういった人間中心設計への姿勢をつくるために、どのようなことを考えていらっしゃるのでしょうか。

竹中:
私は、ゲーム事業にかかわる部署で、ユーザーファーストなものづくりの体制を整える立場として、人間中心設計やデザイン思考の推進に取り組んでいます。

部署の中にはユーザーを起点に考えることに慣れている人もいれば、慣れていない人もいます。いきなり「ユーザーを中心に考えよう」と言っても、うまくいきません。

そこで私は、ユーザー中心の発想につながる、その取っ掛かりをつくろうとしています。

最近では、大きなゲームイベントで来場者を対象にアンケートを実施しました。サービスのターゲットである、ゲーム好きな数百名の方にアンケートを答えて頂き、そこからユーザーの傾向を分析しました。この結果を親しみやすいように優しいイラストを使ったペルソナにまとめ、共有をしました。

また、定性調査を行う際、少なからずコストや時間がかかります。そのため費用対効果での納得感も必要になります。これについては、私が過去に担当したプロトタイピングテストの工数と成果を伝えて、理解を求めています

ユーザーを見る。そうすると、結果的にいいサービスになる。いいサービスになれば数字も上がる。そういう理解を広めていきたいですね。

「品質」にはユーザー体験も含まれる

――御社では、現場とは別に、全社をまたいだ組織として、開発促進部が人間中心設計の推進をされています。

柴崎:
私は、開発促進部という部署で、リーダーをしています。開発促進部は、特定のサービスを持たず、全社横断で支援をする組織です。

当社では、サービスの「品質」に、ユーザビリティユーザー体験も含まれる、と考えています。だから、開発促進部で、ユーザー調査も担っています。

間宮:
私は、全社の、各サービスのユーザビリティテストや、ユーザーインタビューの依頼を受けています。2012年の下期ぐらいから始め、週に1~2件ぐらいのペースで依頼に応えて、累計で200件ほどになりました。

ちなみに、テストやインタビューのモニターは、社員からリクルーティングするしくみを用意しています。社員が5000人ほどいますので、そのなかで募集をして、ユーザーとして来てもらいます。モニターはボランティアなのですが、多くの社員が登録しています。

――社内で、広く理解が得られているのですね。

柴崎:
そうですね。普及活動として、たとえば、社内向けに、人間中心設計のセミナーもしています。現場から「勉強したい」という要望があり、これまで5~6回、開催しました。東京に加え、名古屋や大阪の拠点でもしています。

セミナー後に、「実際にやってみました」という報告をもらうこともあります。また、セミナーがきっかけで「取り組みたいので、手伝ってほしい」という依頼を受けることもあります。

左から: 柴崎さん、間宮さん、小川さん

「Yahoo!クラウドソーシング」で、手軽にユーザー調査ができる

小川:
私も開発促進部の部署のメンバーですが、そのなかで「Yahoo!クラウドソーシング」という自社サービスを利用して、ユーザーへアンケートをとる仕組みを構築しました。

クラウドソーシングを活用すれば短期間で、大量のユーザーの声を集めることができます。必要なときに、すぐにユーザーに聞いて、社内の会議などでコンセンサスを取ることができます。1週間で5000件のアンケート回答を集めて、データの集計までできる、というスピード感です。

2年ほど運用して、累計で100件ぐらいのアンケートと、のべ30万人以上のユーザーの声を集めました。

アンケートを活用した事例として、たとえば、「Yahoo!エンディング」という、死後のことを管理するサービスの企画があります。
「Yahoo!エンディング」は、自身が亡くなったときに備えて家族へのメッセージを残しておいたり、葬儀やお墓の手配ができたりするサービスです。

企画の立ち上げでは、そもそも死後のことにユーザーは興味があるのか、「終活」という言葉を知っているのか、が問題になりました。

そこで、「Yahoo!クラウドソーシング」のアンケートで調べたところ、ユーザーの興味が確認でき、企画を進めることに決まりました。

中川:
私は現場で、「Yahoo!クラウドソーシング」のサービスマネージャーをしています。開発促進部の部署ではなく、現場の人間です。小川とともに、アンケート調査のしくみを構築しました。

サービスを自分たちの思い入れでつくるのはいいけれども、ユーザーに確認してもらうフェーズが必要です。サービスの開発途中のテストにも、リリース後の客観的な評価にも、アンケートは活用できます。

――現場でも、かなり利用が進んでいるのですか。

木村:
私は、この「Yahoo!クラウドソーシング」を利用して、「Yahoo!パートナー」というサービスの施策を検討しました。

ユーザーが、どこにつまずいているのか、どんな意見を持っているのか、すばやく、生のデータを得たかったのです。

ユーザーの声を得る方法としては、カスタマーセンターの記録を調べたり、2ちゃんねるの掲示板を見たり、というのもありますが、どうしてもサービスの問題点への指摘が多い。ユーザーの利用状況を、これらのデータから精査するのは難しいです。

「Yahoo!クラウドソーシング」のアンケートは、ユーザーが使ってみての、生の声を聞くことができます。どうしたらいいのかが、わかりやすい。

アンケートをしてみたところ、「女性のユーザーの意見が思ったより多い」とか「アプリの印象が思ったよりいいね」という感触がわかりました。実は女性のユーザーにアプローチできていないのでは、と思っていたのですが、結果を見ると、女性ユーザーにも利用してもらえるものだと判断できました。そこで、次の施策の方向性が見えました。

実際のユーザーの意見を得る、ということが大事なんです。当社内では、「Yahoo!クラウドソーシング」で、手軽にアンケートができるので、とてもいいです。

左から: 木村さん、藤原さん、竹中さん

ユーザーを中心に考えよう、という空気が社内にある

――御社の会社規模で、ユーザー中心の考えが全社に浸透しているのは、すごいです。

藤原:
新経営体制になり、企業方針に創業以来変わらない「ユーザーファースト」がより強調されて掲げられました。「ユーザーを中心に考えよう」という空気が、社内にあります。

木村:
現場からの「人間中心設計をしよう」という活動だけでは、今の「ユーザーの目線で考えよう」という全社的な動きまでには、なりづらかったと思います。

経営陣が、世の中の課題をもっと解決する会社にしたい、と考えて、それにはユーザーの声を聞いたほうがいい、と判断したのは、大きいです。

私たち現場の声と、経営陣の方針が一緒になって、今のヤフーの空気ができていると感じます。

竹中:
社内で、人間中心設計やデザイン思考のような、ユーザーへのアプローチを意識している人が、どんどん増えている実感があります。

たとえば、「デザイン思考の社内セミナーをやります」というと、制作職の人だけでなく、企画職、営業職、いろいろな人が参加するようになりました。

その反面、ユーザーのことを考えたいけれど、どうしていいか分からない、という人もいます。

そういった様々な人がいる中で、人間中心設計専門家が一人でやったところで限界があります。「みんなで考えてみんなでやる」という空気をつくることが重要で、そういった空気を作っていきたいです

プロダクトを作る一人一人が主体的に動ける空気ができるといい。長い道のりの、第一歩です。

――ありがとうございました。

取材・文:羽山 祥樹(HCD-Net)、神田 江美 写真:神田 江美

HCD-Net認定 人間中心設計専門家・スペシャリスト 受験者を募集中

人間中心設計推進機構(HCD-Net)が実施する「人間中心設計専門家・スペシャリスト」は、日本で唯一の「人間中心設計(HCD)」の資格として、注目されています。

ユーザーエクスペリエンス(UX)や人間中心設計にたずさわっている方は、ぜひ受験をご検討ください。

人間中心設計(HCD)専門家・スペシャリスト 資格認定制度

申込受付期間:2014年11月25日(火)~2014年12月31日(水)

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訂正のお知らせ

12月20日訂正: 19日の初出時、2つの写真のキャプションにて、間宮さんのお名前を誤って掲載しておりました。お詫びして訂正いたします。

公開:2014年12月19日
著者:羽山祥樹、神田江美

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